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渡り廊下のむこうに

 今回、家づくりの会の「家づくり学校3年生」の授業で私は「茶室」の話をするようにと仰せつかりました。そこでテーマを「茶室の用と美」としましたが、今どき用と美とはずいぶんと使い古された、死語になっているような印象を受けると思います。ただ、茶室に関しては茶事のルールに合わない茶室は使い物になりません。ですから「用」を完璧にクリアしないまま完成してしまうと最悪訴えられることもあります。そして、「美」のほうですが、こちらも絶対条件だと私は考えています。なぜなら、たとえば、京都にある古い茶室や千家の家元に残る茶室をご覧になったらわかると思いますが、そこには日本人の美意識の原点に切り込むような美しさがあります。先人の見事なバランス感覚、寸法的なそれだけでなく、光と翳の演出のみごとさ等々。茶室はすべての芸術の総合美といわれる所以です。茶室の経験ありという大工さんの作品を見せてもらうと、はっきり言って美しくない。狭い茶室なのに天井高が高すぎたり、当然軒先も見上げるような高さ。外部にはゴツイ木格子が打ってあったり、障子の桟の太過ぎること!お茶事では障子に映る下地窓の影のうつろいももてなしの大きな要素なのですが……。挙げたらきりがありませんがこれは茶室とは言い難く、茶室風というところでしょうか。やはり、茶室とは用と美が渾然一体となっているものでなくてはなりません。
 さて、住宅に於いてはどうでしょう。もちろん用も美も求められ、そのすり合わせにこの会の建築家はみな日々奮闘努力し、最高に心地良い住宅を提供しているにちがいありません。その意味では住宅設計の基本を茶室の原点に求めて間違いは無いはずです。余談ですが、20世紀を代表する建築家 村野藤吾(文化勲章受賞者)は独立後仕事に恵まれない時代に茶道を習っていたといわれています。また、コンクリート打放しの建築で有名な安藤忠雄も明るいばかりの現代建築に日本建築のひさしや障子や床の間の自然光の翳りや闇の深さを取り戻すべく多くの住宅や教会を残しています。
 写真の建物ですが、母屋と渡り廊下で繋いだ離れ的な住宅です(建築面積21坪)。ミニキッチンのある20畳ほどのワンルームと母上の4畳半の絵手紙の部屋、書庫、納戸、浴室、化粧室とロフトを備えています。友人や学生さんたちとの議論の場でもあり、同時にもてなしの場とも考えると茶室に通じる合理性と精神性が求められます。光と雨音でもてなす、また南西に広がる雑木林の緑でもてなす空間をイメージしたこの住宅は築4年になろうとしています。

photo:渡り廊下のむこうに_01
左手のふすまの奥は絵手紙の部屋。このふすまは右の引き戸との差を付けたくて、幅600mm・高さ1500mm に。ロフトの上にトップライト。

photo:渡り廊下のむこうに1本溝の障子は3本ずつ左右の壁に納める。昔いえの縁側の雨戸のように。障子の外に三角形の3つの縁側。

photo:渡り廊下のむこうに南西の雑木林は浴室から借景。3つの三角形の縁側の外観。

photo:渡り廊下のむこうに母屋と結ぶ渡り廊下。みどりを切り取る額縁窓。