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バラガンの色に秘められていたもの

大学を出、設計事務所に勤務して、初めて迎えた正月、所員全員が招かれた原宿の所長宅で、酒席の後ネクタイの色・柄の選び方を伝授された。いわく「ネクタイの柄の中に一部でもよいからジャケットの色が使われているものを選ぶべし」。妻は「女性なら誰でも知っていることよ」とこともなげに云うけれど、思えば、建築設計での色決めの時に、この言葉はとても役立ってきた。

 

バラガンの色に秘められていたもの_野口

Los Clubes、1964。
バラガンの建築は全て撮影禁止であった。由一、街角で撮影出来たバラガン特有の噴水のある馬の為に用意されたプール。噴水の茶褐色、背後の壁のピンクの色は文中のサン・クリストバルの色そのものであるが、十分にあの時の感動を伝えきれないのが残念である。

1997年1月、メキシコにあの偉大なる建築家ルイス・バラガンの建築を訪ねた。自邸、修道院、厩舎、行く先々で、そのカラフルな色遣いに、驚き、しかも歓喜したことを、今でも鮮やかに思い出す。ピンク、赤錆色、黄土色、薄紫…単に壁に塗られたにすぎないペンキの色々が、神聖そのもの、あるいは楽園をさえ想起させたのだ!門をくぐり、正面遠くに「サン・クリストバル San Cristobalの厩舎」を捉えた時、我々は歓声をあげてかけ出していた。「一体、何故、我々は、これほどまでに感動しているのか!?」。重厚なピンクと一部の赤錆色の壁に囲まれた広いプール(池)を前にして、私は自問自答していた。「それがメキシコの自然や風土の表象の置き換えであり、ピンクはブーゲンビリアの花、赤錆色や黄土色はメキシコの大地、薄紫はジャカランダの花の色である…分析的な過程を経て、熟考ののちに得られた答えが結果的にはメキシコの風土から抽出された色であった」
(CASA BARRAGAN/斉藤裕著、TOTO出版発行より)

 

それは、強い光の下に広がるメキシコの緑豊かな大地・風土の中にちりばめられた色たちと、バラガンの壁に塗られた同色の色たちとが、先のネクタイとジャケットの関係に似て、いや、それよりもはるかに深淵かつ哲学的に呼応しているのに出会った瞬間であった。

 

[家づくりニュース2015年9月号掲載]

「蓄熱式暖房機」1台で61坪の住宅の冬季温熱環境を支える!

「蓄熱式暖房機」1台で61坪の住宅の冬季温熱環境を支える!_野口

階段吹抜けを通して1階家族室から2階居間・食堂方向を見上げる。この1階床面と2階天井面最高部冬季表面温度の差が、わずか0.7℃で納まった!

これまでに何度か紹介しています2階建、ほぼ正方形平面、延べ床面積61坪ほどの住宅。
写真1階、階段下にちらりと見える「深夜電力利用の蓄熱式暖房機」たった1台で、この住宅の冬季温熱環境を支えようとした試みの結末、その報告です!

 

竣工後初めて迎えた冬(2月2日)の午前中、持参した「非接触式表面温度計」で床面や天井面温度を測ってみました。
 写真1階家族室で床18.8℃、天井19.9℃
 2階居間・食堂で床19.1℃、天井19.5℃
なんと、1階床面温度と2階天井(最高部)間約7m20cmの温度差わずか0.7℃。
自分でも驚くくらいの上々の温度分布でした!
この時の私の着衣状況は、木綿の下着+長袖のシャツ+ジャケット。天候は晴れ。
ほんのり芯から温かいといった心地良さを感じていました。

 

この試みを支えた主要な温熱技術は、①屋根・壁・開口の「断熱」、②南面開口からの「太陽光」の取り入れ+③基礎断熱による「蓄熱」、④夜間蓄熱式暖房機での1階「冷気溜まり」のゆるやかな常時暖房による「暖気循環」、その結果としての⑤室内床・壁・天井の表面温度維持と良好な「輻射熱環境」の実現。
等々ですが、詳しくは当工房HP「建築日記」(カテゴリ・温熱環境)を参照下さい。

 

[家づくりニュース2014年11月号掲載]

木の家、木の空間

木の家、木の空間_室内①

仲間を招くのが大好きな家族の為に用意された全長4.3m強の食卓を南方向に見る。右側、筋かいをアレンジした木立状架構は各階からランドマークのように視界に入る。

撮影:安川 千秋

 

40代前半のご夫妻と設計当時小学生だった3人のお子さん達家族の住まいです。
このご家族に出会い、夫妻が日々体当たりで子供達に対している情熱を強く印象付けられました。
この家族にどう「建築」で応えられるか!
そんな思いがこの住宅設計の根底にあったように思います。

 

①南面傾斜地からの夏の卓越風が住宅の隅々を吹き抜けていくこと。
居間・食堂を2階東寄りに、南北縦長に配置し、全長4.3mの食卓や総延長9.1mの調理台+デスクカウンターも、風の流れに沿ってスーッと一方向にレイアウトする構想が、まず浮かび上がりました。

 

②傾斜地正面やや左の横浜方向、西寄り大山・丹沢方向を含む奥深い眺望を取り込むこと。
ふり注ぐ冬の日照をしっかり捉えること。
浴室を2階南西角に位置させ、3つの子供室を1階にずらりと並べ南面させることを続いて確定。
180度のパノラマ状展望が開け、半球状の天空と接するルーフデッキも提案させて頂きました!

 

木の家、木の空間_室内②

2階浴室等の水まわり前の廊下から「小さな吹抜けを持つ階段」を通して居間・食堂方向を見る。

③そして、この住宅北寄り中央の「小さな吹抜けを持つ階段」!
個室群のある1階、居間・食堂や浴室・洗面、北側道路から続く玄関ホールのある2階、そして屋上ルーフデッキ間を、日々家族が上下し移動するこの階段周辺のそこかしこに、一寸ドラマチックな空間的仕掛けを組み込みました。

 

④飾らない、無垢でストレートな素材使いに徹し、環境負荷最少の素材である「木」の架構を力強く表現することにも努めました。

 

⑤等々。

 

書ききれないその他の試みについては、当工房HP「作品」欄を併せて参照頂ければと思います。

 

建築DATA

1階床面積 : 33.57坪           〈家族構成〉
2階床面積 : 33.82坪            夫婦+子供3人
屋 上 屋 : 1.75坪
延べ床面積 : 68.14坪     
構   造 : 木造2階建て

[家づくりニュース2014年2月号掲載]

階段、その魅力

階段、その魅力_野口

屋上ルーフデッキ前の階段ホールから居間・食堂を見下ろす。
左側、壁を少しへこませて作った吹抜けの下は玄関ホール。
冬期高度を落とした太陽光が右側ルーフデッキからその玄関ホールに届く。

階段、その魅力_野口

1階家族ライブラリーから階段を見上げる。2層重なる階段の段裏、さらに上部の居間・食堂にまで続く小屋組みが見通されて一寸壮観です!

重なり水平に広がる居住空間に対して、それを突き抜けるように垂直に立上る階段は、おのずと視界の変化や転換を生じさせ、ちょっと工夫を加えると、とても魅力的で楽しいシーンを誕生させることができます。
住宅内の温熱環境のコントロールが可能になってきたこともあり、階段4周の壁を閉じたり開いたりすることが容易になり、そうした魅力を更に増幅させることも可能です。
写真(1枚目)は傾斜地に建つ住宅の、パノラマ的展望を持つルーフバルコニーに続く階段ホールから2階の居間・食堂を見下ろしたものです。
居間・食堂の光景を階段左右の壁が作り出すフレームがスリット状に切り取り、左右の隠された部分への想像を掻き立てています。
逆に、ルーフバルコニーに続く光に満ちた階段ホールが居間・食堂からの視界に入ることによって二つの空間は心理的にぐっと接近しました。
左側の、壁を少しへこませて作った吹き抜けの下は玄関ホールです。左手から足を踏み入れた来客はこの小さな吹き抜けを通して階段上部の光景を捉え、待ち受けるこの住宅の様々な空間に思いを馳せることになります。
冬期、この吹き抜けを通して高度を落とした太陽光が、右側ルーフバルコニーから玄関ホールに届きます。

陶房を持つ家

「木の家の本」の取材に立ち会う為1月半振りに、植栽を担当した娘と「陶房を持つ家」を訪ねました。
 K夫妻が、社会人となってからずーっと住んでいた名古屋から、第二の人生を楽しむ為に、3月初め本当に久し振りに生まれ故郷のこの大磯の新居に引っ越されました。
 それから春が半分ほど経過する間にすっかり、そして見事なほどに庭の緑は勢いづいていて、私達は思わず歓声をあげました!ご夫妻への挨拶もそこそこに、午後の取材記者の到着を待つ午前中、夢中になって、写真を撮らせて頂きました。
 最高高さ4.5mの勾配天井を持つ19.5畳ほどの居間・食堂にも、木漏れ日に浮かびあがった薄緑の木々の葉のシルエットが窓を覆い隠すばかりに迫ってきます。居間の右側に続き南面する10畳程の寝室の畳ベッドの枕元にもこの緑はチャーンと顔を出していました!
 西側に続くご主人のお兄さんの畑で育ったピカピカの野菜、奥様のお父さんが届けてくれるはちきれるような自然の恵みを素材にして、奥様が腕を振るったお昼を頂きながら「こんなにも緑を見つめる時間が多くなるとは思ってもいなかった!」と、なんだかとても嬉しくなる言葉をご主人から聞きました。
 写真をお見せできずとても残念ですが、これらの居間・食堂や寝室のある母屋、そこから北側に続く渡り廊下状の小さなギャラリー、そしてこの家のなかで重要な位置を占める「陶房」それらに3方から囲まれた2間×4間ほどの中庭が有ります。数株の木々の足元には絵付けの為のスケッチの題材にと夫妻が集められる山野草が植えられます。
 「本当に落ち着いてロクロがまわせる!中庭に迷い込んできた蝶が畑の方から流れ込んでくる気流に乗って上下に漂い、そのうちスーッと浮かび上がって消えていくんです。」
凄い描写ですね。

陶房を持つ家_居間・食堂

居間・食堂より庭方向を見る。木漏れ日に浮かび上がる木々の葉のシルエット、雲海のように浮かぶ何本もの梁の広がり、これを垂直に突き抜けてロフトに至るオブジェのような階段のシルエット。

陶房を持つ家 _外観

3月末の引越からわずか1と月半、一気に雑木の庭の緑が勢いづいた南庭。この緑が、夏に向かう寝室(左側)、居間・食堂(右側)への陽射を和らげている。