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甦った建具

東日本大震災以来、耐震診断調査や耐震補強工事が大幅に増えています。
お住まいに伺い、建物の構造や地震に耐えるための造り方などを説明していると、これは安全な建物の知識の普及活動でもあると感じています。
 この春で、洋館付き住宅の保存修理工事がやっと完了になります。修理の話が出たのは8年程前です。それから実測調査や登録有形文化財への登録、登録有形文化財建造物修理補助事業の実施と続き、慣れない書類と現場監理で気の抜けない日々でした。
 その間にお隣の洋館付き住宅は解体されて5件の住宅メーカーの分譲住宅に様変わりしました。横浜市内には和風住宅の玄関脇に尖り屋根の一間洋館の付いた家がまだ所々に残っています。この家は昭和7年竣工。今年で80歳になります。当時、土地探しに訪れたアメリカ帰りの先代が、素敵な洋館付き住宅を見て、その隣に同じような家を建てたそうです。
 創建当時からのお付き合いで、お隣が解体される時に、その家の建具を譲り受けました。5年前の事です。猫間障子や腰付障子、源氏襖、透かし彫り付ガラス戸等、今では珍しくなった建具が沢山ありました。ガラス戸は結霜(けっそう)ガラス入り。その中の透かし彫り付ガラス戸を、今回の工事で新しく設けた出窓洗面コーナーに再活用しました。元は4枚一組で洗面所に使われていましたが、スペースの都合で2枚をはめ込みました。建て主のTさんは、子供の頃からお隣に通ってあこがれていた洗面所の雰囲気が再現できたと喜ばれています。昔の建具は素材が良くしっかり造られているだけでなく、記憶を封じ込め、呼び覚ましてくれる役目も果たしているようです。

甦った建具_正面外観_菊池 邦子
洋館付き住宅正面
今回の工事でコロニアル葺きだった洋館の屋根を創建当時のフランス瓦に葺き替えました。
棟飾りにはナツメヤシ(Palm)を象った洋館の象徴とも言えるパルメット瓦が付きました



甦った建具_洗面出窓_菊池 邦子
出窓洗面コーナー
水鳥の透かし彫りのある摺ガラス戸を再活用。あこがれの洗面所と同じように10センチ角のタイル張りです。



甦った建具_結霜ガラス_菊池 邦子
結霜ガラス
明治から昭和初期に流行した装飾ガラスの一種。
乾燥前に膠(ニカワ)を塗布し、膠の強い収縮に伴って表面も引っ張られることで霜のような模様が付きます。今回は洋館の出窓欄間
に長年欠けていた結霜ガラスを大正時代のものを探してきて取り付けました。