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「家づくり学校」が日本建築学会教育賞受賞 !!

家づくり学校
「家づくりの会」は、建築家による良質な住宅の普及を目指し、様々な活動を行ってきましたが、2009年より「家づくり学校」という住宅設計を目指す人たちのための学校も運営しています。

 

この「家づくり学校」がこの度、「2014年日本建築学会教育賞」を受賞しました。

 

この学校の講師は家づくりの会の会員が主体となってやっています。家づくりの会は発足し31年の歴史を刻んできましたが、この間、多くの会員が建築家として大きく成長し、住宅設計者の後進を育てる学校を運営するまでになりました。
今回の受賞は「家づくり学校」そのものに対しての受賞であると同時に、「家づくりの会」31年目の到達点とも言えます。

 

「家づくり学校」は10年ほど前に活動していました「建築道場」を前身とし、5年前に建築道場を発展解消し「家づくり学校」が誕生しました。
建築道場は家づくりの会の一部有志による学校でしたが、「家づくり学校」は現在、家づくりの会の重要な活動の一つになっています。

 

家づくり学校の今回の受賞は大変ありがたく、喜ばしいことではありますが、これで良し、とするのでなく更なる夢に向かって頑張りたいと思っています。

 

建築道場の発足を0合目、家づくり学校の発足を2合目とするなら、今回の受賞はまだまだ4合目、まだ半分にも到達していません。次の6合目、8合目、10合目へと夢は続きます。
6、8、10合目の具体的な形はおいおい皆様の目にも触れることができるよう頑張りますが、いずれにしろ住宅設計における社会人教育の新たな地平を開きたいと思っています。


「家づくり学校」における社会にコミットする設計者養成のための教育プログラム、
その実践と継続的取り組み

 

この5月から発足32年を迎えるNPO法人「家づくりの会」は、建築家による良質な家づくりの普及を目的とし、様々な活動を行ってきた。さらに2009年より「家づくり学校」という4年制の学校を運営している。

 

大学を卒業し憧れを抱いて設計の仕事に就いたにもかかわらず、何年かするとこの仕事を肯定的に捉えられない若者が増えている。
それは学生時代に描いた夢とはかけ離れ、何をしようにも社会のあまりにも利益追求という現実的な仕組みに絡め取られ、身動き出来ない内容が要求されてしまうからである。
そのような世界にいると設計者は、自分がなすべきテーマが何かさえも見えづらくなってしまう。
本来、建築家のあるべき姿としては、フリーランサーとして自由度が保てることである。
このような社会から一歩離れて客観的に見る態度は、建築だけでなく社会の未来にとって貴重なはずである。

 

そこで、大学を卒業して設計事務所にいる人や、工務店で設計の経験を積んでいる人たちを学生として受け入れ、住宅設計における現代のテーマを様々な形で提示していくことで、それに影響を受けて自己のテーマを持ち、自己の物差しを持てる設計者へと育てていくことを目的とした。
と同時に、住宅設計で生きることの喜びや勇気を持ちながら、住宅設計者として生きるタフな精神をも育てたいと考えた。

 

このような学校に相応しい講師として、NPO法人「家づくりの会」の中から、様々な分野に秀でた経験豊かな建築家達が務めている。

 

1. 教育の創意工夫

本校の特徴は、実践を前提にしたカリキュラムに特徴がある。各学生の仕事に差し支えない月1回の授業とし、
 1年で本校独自の教科書「実践的家づくり学校-自分だけの武器を持て」を使っての「座学」、
 2年で生産の現場を見てまわる「見学」、
 3年で個別の実践的テーマに取り組む「演習」、
 4年で建築家のスタジオに入って1軒の住宅をまとめあげる「設計」、
といった明快な授業構成になっている。昨年度のカリキュラムから例にとると

 

■1年生 座学コース 家づくり学校1年生コース
     座学による現代の住宅のテーマを知る(年8回)

『住宅設計とは』     講師:本間至/生活する行為に対して、建築部位が
             どんな作用を及ぼすか等
『素材から考える』    講師:泉幸甫/自然素材との向き合い方 |
             川口通正/汚れない建築
『構法から考える』    講師:大野博史(オーノジャパン)/建築家とのやりとりから生まれる構造デザイン
『歴史から考える』    講師:山本成一郎/古建築の改修や、伝統工法を用いた現代の建築
『木から考える』     講師:古川泰司/森を守る国産材の活用 | 松本直子/産地からの直接購入
『外構から考える』    講師:村田淳/ゾーニングや設備との取合い | 泉幸甫/計画性を超えた自然との出会い
『環境から考える』    講師:半田雅俊/日射取得率も考慮に入れた実践的断熱設計
『手づくりをいかに残すか』講師:泉幸甫|山本成一郎|藤原昭夫/ロジステック、鋳鉄による架構他

 

■2年生 見学コース 家づくり学校2年生コース
     建築生産の現場を知る(年8回)

『石』       講師:植松時四郎(石屋)「深大」/
          稲田石の採石場、加工工場見学 (茨城県笠間市)
『植木』      講師:佐伯四郎(植木屋)「佐伯造園」|
          内田清市(植木材料屋)/曼珠苑の植木畑 (東京都調布市)
『建具』      講師:荒川義昭「荒川木工所」/
          秩父にある木工所群(埼玉県比企郡)、荒川木工所(東京都昭島市)
『古材・再生素材』 講師:安井正/古道具店「柳沢商店」(東京都葛飾区)、石膏ボード再生工場(埼玉県八潮市)
『古建築』     講師:山本成一郎/日光東照宮(栃木県日光市)
『左官』      講師:木村一幸「木村左官工業」/富沢建材(東京都中野区)
『木材』      講師:古川泰司+上林規男(きこり)/
          埼玉県秩父山中、金子製材(埼玉県秩父郡)、岡部材木店(埼玉県飯能市)
『和紙』      講師:久保孝正「久保昌太郎和紙工房」/
          東京松屋(東京都台東区)、久保昌太郎和紙工房(埼玉県比企郡)

 

■3年生 課題コース 家づくり学校3年生コース
     具体的なテーマについて講義と演習課題(年8回)

『茶室』  計2回 講師:川崎君子 
          講師の設計による茶室で茶事の体験、設計の講義後、
          実際に存在する茶室の改善案作成。
『屋根』  計2回 講師:徳井正樹 
          講師が開発した新作瓦を見学、屋根の役割について
          講義後、「雨と熱」の視点での屋根のデザイン提案。
『工法から考える』 計2回 講師:藤原昭夫 
          東日本大震災における仮設住宅をはじめ、講師が考案した新しい工法の紹介の後、国内の林業活性を
          念頭に、木質系素材を主原料とした工法の提案。
『自然』  計2回 講師:松原正明|講師:安田滋(安田滋アトリエ) 
          講師が設計した田園風景の中の週末住居を体験後、ローテク・ローエネルギーによる
          「自然に溶け込む夫婦二人の小さな家」を設計提案。

 

■4年生 スタジオコース  家づくり学校4年生コース
     実際の敷地が与えられ、4人の実績ある建築家から一人を
     選び、そのアトリエで設計をまとめる。(年8回)

川口通正 / 川口通正建築研究所 
       素材に精通し、狭小住宅をはじめ多数の住宅を手掛けた建築家の
       もとで設計をまとめる。
半田雅俊 / 半田雅俊設計事務所 
       パッシブソーラー等環境に配慮した住宅に精通する建築家のもとで設計をまとめる。
本間 至 / ブライシュティフト
       住宅の間取りや美しさを構築的に追求する建築家のもとで設計をまとめる。
諸角 敬 / スタジオA(アー)
       多様な手法を使い分けながら美しい空間を追求する建築家のもとで設計をまとめる。

 

(※印は、家づくりの会会員建築家)

年度ごとに講師、講義内容を少しずつ変えていくことにしている。
上の学年がリピーターとなって下の学年を受講し、学年相互のコミュニケーションも図れるためである。
また、産休・育休などからの復学や、年度途中からの受講など、学生個人の状況に対し、少人数だからこそできる柔軟な運営体制をとっている。

 

講義外の活動として、講義後の懇親会(毎回)、SNSによる意見交換、講師の住宅完成見学会、学生主催による修学旅行(全学年参加)など積極的に行い、学生同士だけでなく、講師との間も身近な距離でコミュニケーションを図っている。

 

学生との間に身近な関係をつくっていると、例えば、こんな声が学生から聞こえてくる。
「1年で既成概念を覆され、2年で生産現場を目の当たりにすると、そのまま上に進むのはもったいない。もっと自己修練を積んでから、3年の課題や4年の建築家スタジオに臨んだ方が自分のためになるのではないか」
「4年を1回きりで終わらせたくない。今度は○○先生のスタジオに入りたい」
我々としてはそういった学生の心の変化を歓迎し、前述のように、「休学-復学」の道筋を設けたり、4年を複数回受けることを認めたり、柔軟な運営をしているわけである。

 

2. 教育活動としての周知の状況

・「新建築・住宅特集」「新建ハウジングプラスワン」「建築ジャーナル」で、家づくり学校の活動を掲載。

・講義内容をまとめた「実践的家づくり学校―自分だけの武器をもて」(彰国社)の発刊。(全国の書店で販売)

・我々の授業のオリジナリティやクオリティを保つために、少人数制であること、意識の高い設計者に受講してもらいたいことから、広告による周知活動は行っていない。その代わり、運営母体であるNPO法人「家づくりの会」では、催事のあるたびに本校の活動を報告し、設計者のみならず、様々な建築関連企業に「家づくり学校」が認知されるよう心がけている。

 

これらの周知活動のほか、在学生が友人に薦めることも多く、東京で行っている月1回の学校であるにもかかわらず、青森、宮城、福島、静岡、三重、富山、兵庫、福岡といった遠方からも通ってきている。
これまでの5年間で100名を超える設計者たちが、本校を受講している。

 

3. 教育の効果

ものづくりにおいて利益追求型の既成の仕組みにとらわれない、自分の置かれている立場から得た狭い知識に固執しない、といった設計者としての意識改革がまずは大事であると考える。

 

1年間の講義終了後に提出してもらっているレポートを読むと、間取りの考え方、照明の選びかたといった具体的な知識の習得のほか「建築家として深く追求する姿勢」「高い目標を見つけて設計者として生きることへの覚悟」など挙げていることを特筆したい。
また、学校側で用意しているSNSでの学生の活動を見ると、入学当時と比べはるかに、活発に議論に参加し、学生自身の仕事内容や活動に反映されつつあるのが判る。
学生一人ひとりが、実に個性的で、在学中より素材の生産地との関係を作ったり、独自に温熱環境に取り組むようになったりと、それは多岐にわたり、各自が独自のテーマを発見しつつあるようである。
人的ネットワークについても、学生同士で情報交換をしながら明快な目的を持って独立する例や、既に事務所を持っている者が職人とのつながりを意識して仕事している例などが確認できる。

 

4. 教育活動を通した社会への貢献の程度

大学を卒業後に社会を経験した後、もう一度学びたいと思っている者は多い。
非住宅系の設計事務所から独立し住宅設計のノウハウを得たいと思っている者、住宅設計を主とする事務所に所属するものの主宰者の考え以外を実践する機会がなく、もっといろんなことを知りたいと思っている者、実に様々である。
いずれの場合も、社会で活躍する建築家の生の声を聞きたがっている。
「家づくり学校」は、そういった若手設計者に門戸を開いたが、当初想定した独立前後の設計者のほかに、工務店設計部に所属する設計者も多くなり、当校で得た知識を組織に持ちかえって設計の質を上げようとするケースも増えてきた。

 

個人事務所を開いている学生の具体例では、名古屋で設計している学生が、2011年入学以降「すまいる愛知住宅賞」「愛知県住宅供給公社理事長賞」「愛知県森林協会長賞」「愛知まちなみ建築賞」などを受賞しており、その手法は当校で体得したものづくりをまさに実践したものである。
また、柏市で設計している2009年入学の学生は、「かしわっ子主義お店デザインコンテスト」という地元密着型コンペでグランプリを受賞した。

 

以上のように、我々の行っている教育活動は、個人による設計、組織による設計によらず、自立した設計者への道を支援していることになる。
ひいては、日本の住宅産業界の「設計の底上げ」、また社会資本としての「住宅の質」を高めることに、微力ながらも着実に貢献しているのではないかと考える。


どうかこれからも皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。

家づくり学校校長 泉 幸 甫
NPO法人家づくりの会 代表理事 根來 宏典