家づくりレポート

白い板張りの家

 住宅の内装の中でも板張りの壁天井は最も手間が掛る仕上げのひとつだと思います。天井に1枚1枚実(さね)のついた板を張る作業は大変ですが、出来上がった後の素晴らしさには替えられません。普通は杢目をそのまま惹きたてるクリアーなオイル拭取り等の仕上げにすることが多いのですが、この家では白い塗装をしました。顔料の入ったオイルステインを拭取ったアッシュの板は微妙に白と肌色と灰色が混ざり、独特の風合いとなりました。
 板張りには悩まされます。薄い突板を張った塗装済みの既製品の板は、精度がよくツルツルできれいなのですが張り上がってもあまり感慨がありません。無垢の板を加工し一枚づつ張ったものとは何かが違います。とは言いながらも予算や床暖房や傷を気にすると無垢の板張りはなかなか実現できません。また杉や桧のような和材を張るとどうしても和風に見えてきます。節のある板となると嫌だという方も多いようにも思います。安っぽく見えてしまうのだと思います。この家では当初杉板を張る予定だったのですが、出来るだけ洋風にみせるためアッシュ材に変更しました。
 マンションや住宅メーカーの標準的な家に使われる木製品はみなフェイクなものばかりになってしまいました。印刷技術の進歩で杢目の印刷シート貼りの建具や、額縁、家具等は本物の木と見分けがつかないほどです。予算の関係で仕方がない場合以外には受け入れがたいものです。大量生産でできた偽物に囲まれる生活と活きた木に囲まれる生活では何かが違うだろうと思っています。
 さて、この春から家づくりの会に参加することになりました。大震災を経て建築の設計は耐震、節電、省エネについてより高度な性能を考えざるを得ない状況になってしまいました。会の中で研鑚していきたく、今後ともよろしくお願いいたします。

photo:白い板張りの家
玄関前軒天の白い板張り。

photo:白い板張りの家
LDKの天井板張り。

photo:白い板張りの家
階段の壁にも白い板張り。

1 階 : 33.18 坪        家族構成 : 大人 2人
2 階 : 26.70 坪               (将来子供を想定)
延べ : 59.88 坪

町なかハウス ─ 光熱費ゼロも可能な住まい ─

 「町なかハウス」と名付けられたこの住宅は、徹底したスケルトン&インフィル工法です。外周壁・屋根・基礎は、高い耐震性と断熱性能を持ち、室内には構造壁がありません。床面積は小さくても広々と使え、家族が楽しく過ごせるオープンプランです。間仕切りが可変なだけでなく、配管などの設備も取り替えられます。家族構成や時代の変化に対応しやすい長寿命住宅でもあります。
 暖かい住宅は当たり前になりました。これからの住宅で大切なのは、夏対策です。断熱性能を上げることで“無暖房” 住宅は可能ですが、“無冷房” 住宅は断熱性能だけでは実現できません。「町なかハウス」は、植樹をします。木陰をつくり、効率の良い遮熱をします。防犯性の高い換気窓を設け、自然排熱をして涼しい家を作ります。エアコンに頼らず自然室温で暮らすことを目指す省エネ住宅です。
 屋根の形は片流れ、太陽光発電を装備しています。上手に住みこなせば、水道代やガス代分を買電で賄うことも可能。光熱費ゼロ住宅も実現できます。

町なかハウス ─ 光熱費ゼロも可能な住まい ─
室内と庭をつなぐテラス。戸外の居間。

町なかハウス ─ 光熱費ゼロも可能な住まい ─
木陰をつくる。家の前に植樹をします。

1 階 : 14.00 坪
2 階 : 12.00 坪
延べ : 26.00 坪

住まいと緑

 先日、京町家「秦家(江戸時代末期におきた戦乱による大火で焼失後、明治2年に再建された商家)」を見学する機会に恵まれました。通り庭から玄関土間に入り、一間半四方の明るくも控えめな中庭を見つつ、座敷の奥は築山と堀蹲(つくばい)を用いた高低差による立体感が見事な奥庭があって、二つの庭に挟まれて座敷では心地よい風がすーっと通りぬけていきました。町家の周囲はいまや高層マンションが立ち並んでいるというのに、この静寂さ、気候風土ならではの独特の居心地良さはこの素晴らしい庭あってのものと、改めて日本の庭の素晴らしさを堪能してきました。
 5月末、東中野で昨年お引渡した住宅の撮影をさせて頂きました。お引渡しの頃は冬だったこともあり生垣のトキワマンサクもまだ新入り顔。植木畑で一目惚れしたホンシャラも新芽がまだで春心待ちの心境でした。敷地半分を将来のために残しての新築計画だったため、残した敷地半分の庭と玄関土間前に配した坪庭は、現場中に建て主さんが造園屋さんの仕事に惚れこまれたのをきっかけにお引越後徐々に手を入れられて、時折ご主人から頂くメールで伺ってはいたものの、5月にお住まいに伺った頃には、新緑と共に家の佇まいも生命感溢れる印象、見違える思いでワクワクしてしまいました。それも単に綺麗に庭をつくったという形ではなく、気張らない雑木の庭の中にあって、坪庭の白砂利には建て主さん自身が発掘したアンモナイトの化石が埋まっていたり、庭には小鳥の餌台、もともと敷地内にあった玉石を飛び石へ再利用、庭に茶室はまだ設計していませんが(!)留石まで配されています。加えて濡れ縁には番犬ならぬ番犀(さい)の置物などお目見えして、建て主さんの好みのものがさりげなく楽しげに取り込まれている様子、そのお話など伺うだけでも何時間も話が弾んでしまいそうな楽しい撮影の時間となりました。
photo:住まいと緑
番犀(さい)と共に庭を愉しむ濡れ縁からリビングダイニングをのぞむ。

 現代人にとって庭を愉しむなどいまや贅沢な時間(私も多分にもれずそのような豊かなひと時は中々得られないのが現状ではあるものの)と羨ましく思いつつも、自然と四季を感じつつ日々暮らす器のもたらす心地よい時間の豊かさを得んと日々図面に向き合っています。
photo:住まいと緑
玄関土間から見える坪庭と2階へ上がる階段。
自転車愛好家の息子さんのため、玄関に自転車スペースを兼ねた広めの土間。

1 階 : 16.71 坪
2 階 : 14.85 坪
延べ : 31.56 坪

ラナイのある家

ラナイのある家
生命の終わりの日まで台所に立ちたい、と願う住み手の一部になるようなコックピットのような台所になってます。

  「生命の終わりの日まで台所に立ちたいと願っています。
   それを実現できるような場がほしいです。」
 クライアントの一番最初の言葉。有名料理研究家のお弟子さんで、良い道具を使って宝物である昆布で出汁をきっちりひき、命をいただくことを大事に考える人。
続けて
  「働いていたときは時間に制約されたストレスの多い日々でした。
   今はゆったりとした時の流れの中で丁寧に暮らしたいと思っています。
   日々の生活も人との関係についても。」
これほど昨今沁み入った言葉はない。「丁寧に暮らす」ということば。雑でぞんざいに毎日を暮らす私に、神様が前に据えてくれた人なんじゃないかと思ったほど。
さらに話し始めると次々に色んなことが連鎖してくる。フリーダカーロ・スウェーデン・辰巳芳子先生・オヒョイズ・目白のかいじゅう屋・monSakata・坂田和實・三谷龍二・クラフト市……関係ないようで興味の繋がりが同じ方向であり、クライアントと不思議な縁を感じた。
(もちろん私の薄い知識に合わせて、話をしてくださる懐の深さのある方なのだけれど。)
シアワセだと想う時を尋ねると
  「むつかしい質問ですが、単純に言うと次の通り。
   今日は快晴で、ベランダには洗濯物と布団が干されていて、室内は太陽の光
   が十分に差し込んでいて温かく、台所からはスープの良い香りがしていて、
   読みたい本があり今日中に解決しなくてはならないこともない。
   こんな今の状況をとてもシアワセだと感じます。今日はそんな日。」
もうまったく同じ幸せ感を共有できる!
この時点で私の中に暮らしのイメージがわぁーっと広がった。これだから住宅設計という生業はホントに面白い。
                   ※「ラナイ」とは「ベランダ」という意味のハワイ語

1 階 : 14.24 坪
2 階 : 8.90 坪
ラナイ : 2.49 坪
延べ : 25.63 坪

西御門の家

photo:西御門の家
変形旗竿地の長く奥行感のあるアプローチ。

 由緒正しき鎌倉の奥深い谷戸。小さな二人の子供のために、まだ新しい近くのマンションを売って家を建てることを決断された御夫婦によると「東側に見える向かいの山の稜線の眺望が気に入って……」 がこの土地を購入される決め手となったとのことでした。
 土地は南北に長く少し変形した旗竿地で、西側には緑濃い山の斜面が間近に迫っています。建物は敷地そのままに南北に長い家として、建物の中央に設けた大きなリビングダイニングの吹抜け越しに家全体がつながった、とても開放的な家となりました。
 家のどこにいても東には陽の光を反射する向こう側の山の描くなだらか稜線、西には建物に覆いかぶさるほど近くの濃い緑、異なる両面の緑の風景をどちらも楽しむことができるので、太陽の移ろいによって刻々と変化していく廻りの自然の様を楽しみながら毎日過ごされているそうです。
 奥まった敷地であるために、建物自体の外観は街の中ではほとんど目立たないのですが、敷地の長い奥行を見通すアプローチの外構は奥様と一緒になってこだわって、明るい芝生の緑や少し和風な趣の庭、紅葉を楽しむ庭など場所ごとにテーマを変えた植栽を施していて、季節ごとの移り変わりもこれから楽しみです。
 完成後しばらくしてから訪れたとき、とても静かな周辺環境の中で家全体に設けたオーディオシステムから流れる静かな音楽と、その中で過ごすゆったり流れる時間がとても心地よかったことが印象的でした。

1 階 : 18.49 坪
2 階 : 14.52 坪
延べ床面積 : 33.01 坪

成田東のコートハウス

家と庭の思い出
 この原稿を書いている頃にちょうど桜が満開になり、街は急に華やかになりました。この家の敷地にも以前から桜があり、建て替えにあたり切らずに残しました。もう老木ですがきっと今年もきれいな花をつけたことでしょう。
 初めて敷地を訪れた時のことは今でもよく覚えています。夏の暑い日で、年月を経て大きく育った木々が色濃くあたりを埋め尽くしていました。築50年ほどの平屋と和の趣きをまとった庭。現代の水準からすればコンパクトで時間の流れをまとい風化した佇まいがそこにありました。
 建て替えることで家はまったく新しくなるわけですが、その佇まいのもつ雰囲気や空気感いわば「記憶」のようなものを少しでも残したいという思いは、建て主と共有していたと思います。相談の上、屋根瓦、表札、懐かしいデザインの水栓などに加え、庭の木を選んで残すことになりました。桜以外には松、梅、紅葉などがあり特に松は立派でした。しかし、新しい家の計画にはあいにくの場所に植わっています。いくつかプランを検討した結果、桜だけを残すことに。そうして、ヤマボウシの中庭と桜の庭とがつながるコートハウスになりました。
 この家の近くには緑豊かな公園があります。設計が進むにつれだんだんと緑への関心が強くなってきたご主人は、散歩しながらよく1本1本の木を観察したそうです。竣工後もご自分であれこれと草花を植えて楽しまれています。新しい家に住むようになってご自身の興味の幅も広がったようです。この庭の緑も、きっと長く愛着をもって大切にされることでしょう。

成田東のコートハウスリビングから庭を見る。正面に株立ちのヤマボウシ、左に残した桜の木が見える。
ヤマボウシは上向きに花がつくので、2階からも花が楽しめます。

成田東のコートハウスコンクリートと木の素材感で構成した玄関ホール。
正面には紅葉、右に進むと中庭が目に入ります。

対岳荘

 高台に位置する閑静な住宅街で、計画地は東側が崖地に面しています。麓には利根川が流れ、正面には前橋市のシンボル『赤城山』を望めるロケーションです。建て主は「赤城山の雄姿と前橋市の街灯りを見ながら暮らすこと」をテーマに、この土地を購入。設計者として与えられた課題は当然、この立地条件を最大限に活かすことでした。
 美しい景色を取り込む庭園の手法に『借景』という言葉がありますが、それは景色に100%依存するということではありません。あくまで共存。そこに建築が存在する意味があると思います。景色を見るだけなら建築は必要ありません。特に住宅は、そこに人間の営みがあります。建築を活かす景色に恵まれた住宅ではありますが、同時に景色を活かす建築。それが人間と環境との共存を愉むということだと思います。夏は緑の絨毯(木々)の上に浮かんでいる様ですし、冬には葉が落ちて利根川の流れが臨めます。春は芽吹き、秋は紅葉が美しい。四季折々の移ろいを愉みながら、赤城山への精神的な方向性が増しつつ、同時に身体をシッカリと受け止め、包み込む器としての包容力ある空
間を目指しました。
『対岳荘』は、建て主が付けたネーミング。愛着を持って、私も使わせて頂いています。

対岳荘
雪景色。

対岳荘
外構と建物とが一体となった景色。

飯塚の家 11

 昨年末に完成した4人家族の家です。敷地は北と東が道路で、南は2階建ての共同住宅、そして西は神社の広場でいつも子供たちが楽しそうに遊んでいます。
 建て主さんとはホームページを通じて、さいたま市の建築セミナーで出会い、今のお住まいを訪問して契約へと進みました。親の土地を分けてもらって建てるという恵まれた環境ではありましたが、これから住宅の融資を受け、返済しながら子育てをするのは大変です。出来る限り負担を抑える意味でも「長期優良住宅」の採用は不可欠でした。
 マツザワ設計に依頼があったという事は、もちろん木の家でという事になりますが、建て主さんが単に木の家を望んでいるわけではなく、健康や環境問題、木の質感、和風など希望している内容は各々異なります。また、それらの要望が全てではなく、当然ご主人の夢、奥さんの憧れ・現実の希望、子供たちの要望なども重要です。
 いくつか大きな希望として
 ・吹抜けを見上げると木の骨組みと漆喰がきれい!
 ・ぐっと目をひく大黒柱(丸太)が欲しい!
 ・子供が暴れても、追いかけっこをしても良いような間取り!
 ・隣の公園の木々を見ながらお茶を飲みたい!
 ・バイクいじりができ、いろいろ作業ができるアトリエが欲しい!
 ・夕陽を見ながらソファーに腰掛け、ゆっくりとお酒が飲みたい!
 ・リビングにつながるデッキでバーベキューをしたい!
 ・木材は高価でなくても良いので、使い込むうちに飴色の艶が出るもの!
というような希望の他、一般的なキッチンや仕上げや使い勝手の希望もたくさん頂き、夢がいっぱいの要望でしたが、実際に動き出すと予算と現実の中でいかに夢を形にするかの作業が続きました。いろいろ予算では苦労しましたが、そよ風(空気集熱システム)も採用され、快適で健康的な省エネ住宅が完成しました。

飯塚の家 11
建て主さん希望の吹き抜けを見上げると、木の骨組みと漆喰の壁(一部板張りに)と木と空と。

飯塚の家 11
寝室から見下ろしたアイランドキッチン。上にはファミリースペースがあり、このあたりに家族が集います。

盛岡の家

 岩手県盛岡市の郊外に昨秋完成した住宅です。寒冷地仕様の家は、高性能の断熱材と気密性の高いサッシに包まれています。十畳の広い土間の上は吹抜けとなり、家全体がひとつながりの空間となっています。建て主さんは、この土間で楽器の演奏をしたいとお考えの様です。
 階段を上がりブリッジを渡ると居間とキッチン。南の窓からは田園風景が広がります。天井の高い位置に付けられた横長の開口部より適度な採光が室内に届けられます(この窓は通風のために一部が開くようになっています)。壁に付けられた四角い小窓からは、通りを挟んだ先にあるご両親の家をちらりと見る事ができます。
 この家はローコストで作られました。形状はシンプルな三寸五分勾配の片流れ屋根の直方体。部屋と部屋の間に壁や建具をほとんど作らず、建て主さんがお持ちのお気に入りの家具で仕切るなどの工夫をしました。そのため内部に露出する杉の柱が多くなりましたが、それがこの家のインテリアの味わいともなっています。

盛岡の家
2階居間。ブリッジの手前より南側の居間を見る。

盛岡の家
1階土間。正面の障子の向こうが玄関引戸。

保谷の家 「リフォーム」

 新築かリフォームかの選択から始まり幾度もの打合わせと現場調整を重ねてきた保谷の家のリフォームが2月に竣工しました。
 築42年のお住まいはご両親の代から引き継がれ増改築を繰り返していましたが、そのことで居室が分断され内外への視界や採光、通風を遮り構造的な弱点にもなっていました。
 今回の工事では1、2階南側の障害になっている部分の減築を行い、コストを抑えるため外壁やサッシ及び2階居室の一部は再利用して内部を解体、基礎や木造躯体の耐震補強、開口部や天井、壁、床下の高断熱化、段差の解消、温風床暖房、記憶に残る柱梁の利用など、見えにくい事柄も大切にして、使い勝手の良い回遊プランに改修しています。
 保谷の家には1階に3つ、2階に1つ合計4ヶ所の回遊ルートがあります。改修前は北側の玄関から中廊下を中心に、洗面、寝室、階段、和室居間、ダイニング、と全て行き止まりのプランでしたが、リフォームでは1階の玄関ホール~LD~クロゼット~寝室~玄関ホールの居室回遊ルート、玄関ホール~洗面~収納~キッチン~LD~玄関ホールの水廻り回遊ルート、キッチン~LDの配膳回遊ルートの3つがあり、2階も階段ホール~寝室・2~物干しテラス前室~和室・1・2~階段ホールと一回りして物干しデッキや2階トイレにそれぞれの居室からアプローチできます。

保谷の家 「リフォーム」
リフォーム後の北側玄関。ブロック塀を撤去、植栽し木製玄関引戸と通風用網戸、窓防犯用に木製格子を新たに設けた。

保谷の家 「リフォーム」
リフォーム後のLDK。中央壁の奥に減築したキッチン、独立柱の手前は和室居間、奥に暗く孤立したダイニングがあった。

ときわ台の家

 築35年の古い家の改修をおこないました。敷地は旗竿状で玄関までの長いアプローチには様々な木や花が植えられています。通路であり小さな庭でもあるその場所は、この家を大きく特徴づけるものといえます。その土地で育ってきた貴重な木や花を活かしながら、新しく住む人がそこに少しずつ手を入れていく……それが新しい家族の形としてそこに景色をつくっていくのです。
 改修においては現状を調査することから始まります。その中で建て主さんの望まれる空間について検討しながら、改修が必要なところを把握していくという作業が重要となります。改修においては、すべてを新しくすることが最良とはいえません。住まい手の家族構成やこれからそこにどのくらい暮らすのかなどの将来像、そして当然予算も総合的に考えなくてはいけません。そうして現状で活かせるものは最大限に利用し、そこに少しずつ新しいものを取り入れていくという作業が始まるのです。
 今回の大きなポイントは、居間として使われていた和室とそれに続く台所の改修でした。床は下地も含めて傷んでいたため、下地を直した上でフローリングを貼りました。家族の中心となるリビング・ダイニング・キッチンを一室の空間とし、新しい住まい手の生活スタイルにあった空間へと生まれ変わりました。設備機器も老朽化が進んでいましたので、キッチンや洗面、トイレなどは新しくしました。その他構造的な検討から一部壁の補強、コンセントなどの増設や電気容量の見直し、給湯器の交換などのインフラの整備をおこないました。
 このように現場の状況を見つめながら、工程が進む中で見つかる問題に対処し、これから住まわれる家族のための新しい「場所」をつくっていくということは、とても刺激的で幸せなことでした。

ときわ台の家
新しくなったリビング。以前から使われていた障子はそのまま残している。
壁は珪藻土(壁塗りは、建て主さん自らも参加。)

ときわ台の家
旗竿状の敷地の通路部分には様々な植栽が育っている。今あるこれらのものを活かし、少しずつ手を入れていくことになりそう。

家ではなくてガレージと倉庫

 熱海に別荘を設計しました。といっても正確には別荘に付随するガレージと倉庫です。別荘は道をはさんだ反対側にあります。以前この土地は林だったのですが、地主が木を全部抜いて造成してしまい、それに危機感を感じた施主が土地を買い取り自分の別荘の周りの環境が悪くならないようにしようと考えたのが事の始まりです。母屋にもガレージはあるのですが、もっと余裕のあるガレージにしたいという事情もありました。
 6年前に建てられた母屋の別荘。実は私の設計ではありません。大学の先輩でもある内藤廣さんの設計です。内藤さんが別荘を造り、私はガレージと倉庫?でも母屋で設計の打合せをしながら意外と楽しく仕事をさせてもらいました。
 敷地は約250坪と広いのでどこに配置すればよいのかから始まり、残りの部分をどのようにするか?限られた予算の中で試行錯誤した結果が写真の通りです。ガレージは敷地の奥に配置し、残った土地はできる限りもとの林のようにしようということで話が進み、植える樹木は熱海から箱根の植生を参考に決めました。 予算の関係で小さめの苗木のような木が多いのですが、10年後には立派な林になると思います。
 余談ですが箱根は色々な種類の樹木が生えており、その多様な木の特徴を生かして箱根細工という工芸品が出来るようになったのです。何となく見ているお土産品ですが、ちゃっかりと設計に使わせてもらいました。

家ではなくてガレージと倉庫①_諸角 敬箱根の多彩な植生を参考に植えられた苗木。

家ではなくてガレージと倉庫②_諸角 敬1階はRC造、2階木造部分の外壁は母屋と同じ角波板鉄板と一文字葺きの組み合わせ。