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コラム

はじめてのイセ

 いま、神奈川県立近代美術館・鎌倉で「石元泰博写真展」が開催中、石元さんは今年2月に90歳で亡くなってしまいましたが、僕にとってはライカ使い、「桂離宮」、「伊勢神宮」の写真で大好きな写真家です。
 石元版「桂離宮」は最近出版されたものの他、これまでにグロピウス+丹下健三版、テキストが丹下さんでレイアウトが亀倉雄策さんのモノクロ版、テキストが磯崎新さんで装丁は田中一光さん、レイアウトが太田哲也さんのカラー版(僕のおすすめ)が出版されていますが、それぞれレイアウト者のデザインで写真のトリミングが異なり、4冊全部欲しいくらいです。

 今回のイセはテキストが磯崎さん、装丁・レイアウトは太田さん版の「伊勢神宮」で予習をして行ったはじめての「イセ」旅行。
早朝6:30からの参拝は、人も少ない宇治橋の鳥居で一礼して右通行で渡り、手水舎でお清め、ちなみに内宮は右に手水舎があるので右側通行、外宮は左にあるので左通行、なぜ左右違うのかは調べて下さいね。
鳥居は正殿の棟持ち柱を20年後の遷宮で再利用、次の遷宮まで合計40年間使われる檜材。
すでに参道では落ち葉を掃く職人さんがきりのない作業を、砂埃が立たないように散水車が走り、神楽殿では巫女さんが拭き掃除を始めていました。
早朝から延々と続く行に、イセでしか味わえない空気感がたまりませんでした。

 6月10日まで鎌倉で「石元泰博写真展-桂離宮1953,1954-」が開かれています。
是非、石元さんのモノクロ写真でこの空気感を感じに、新緑の鎌倉まで見に来て下さい。

はじめてのイセ①_森 博

①船大工さんがつくる太鼓橋、ここを渡ると「あの世」の世界へ。

はじめてのイセ②_森 博

②ファストフードの牛丼とは違い、イセの牛丼は美味かった!

はじめてのイセ③_森 博

③柄杓を右手に持って左手、右手、口、左手、柄の順に清めます。

はじめてのイセ④_森 博

④檜に巻かれた竹は虫除けではなく「人除け」、さわられて痛むのを防いでいます。

はじめてのイセ⑤_森 博

⑤鳥羽の入り江にある「海の博物館」、展示・建物とも半日堪能しました。

はじめてのイセ⑥_森 博

⑥国道23号の行き止まりが内宮、まさに「この世」の終点。

甦った建具

東日本大震災以来、耐震診断調査や耐震補強工事が大幅に増えています。
お住まいに伺い、建物の構造や地震に耐えるための造り方などを説明していると、これは安全な建物の知識の普及活動でもあると感じています。
 この春で、洋館付き住宅の保存修理工事がやっと完了になります。修理の話が出たのは8年程前です。それから実測調査や登録有形文化財への登録、登録有形文化財建造物修理補助事業の実施と続き、慣れない書類と現場監理で気の抜けない日々でした。
 その間にお隣の洋館付き住宅は解体されて5件の住宅メーカーの分譲住宅に様変わりしました。横浜市内には和風住宅の玄関脇に尖り屋根の一間洋館の付いた家がまだ所々に残っています。この家は昭和7年竣工。今年で80歳になります。当時、土地探しに訪れたアメリカ帰りの先代が、素敵な洋館付き住宅を見て、その隣に同じような家を建てたそうです。
 創建当時からのお付き合いで、お隣が解体される時に、その家の建具を譲り受けました。5年前の事です。猫間障子や腰付障子、源氏襖、透かし彫り付ガラス戸等、今では珍しくなった建具が沢山ありました。ガラス戸は結霜(けっそう)ガラス入り。その中の透かし彫り付ガラス戸を、今回の工事で新しく設けた出窓洗面コーナーに再活用しました。元は4枚一組で洗面所に使われていましたが、スペースの都合で2枚をはめ込みました。建て主のTさんは、子供の頃からお隣に通ってあこがれていた洗面所の雰囲気が再現できたと喜ばれています。昔の建具は素材が良くしっかり造られているだけでなく、記憶を封じ込め、呼び覚ましてくれる役目も果たしているようです。

甦った建具_正面外観_菊池 邦子
洋館付き住宅正面
今回の工事でコロニアル葺きだった洋館の屋根を創建当時のフランス瓦に葺き替えました。
棟飾りにはナツメヤシ(Palm)を象った洋館の象徴とも言えるパルメット瓦が付きました



甦った建具_洗面出窓_菊池 邦子
出窓洗面コーナー
水鳥の透かし彫りのある摺ガラス戸を再活用。あこがれの洗面所と同じように10センチ角のタイル張りです。



甦った建具_結霜ガラス_菊池 邦子
結霜ガラス
明治から昭和初期に流行した装飾ガラスの一種。
乾燥前に膠(ニカワ)を塗布し、膠の強い収縮に伴って表面も引っ張られることで霜のような模様が付きます。今回は洋館の出窓欄間
に長年欠けていた結霜ガラスを大正時代のものを探してきて取り付けました。

南米旅行

南米旅行_クスコの街並み_田代 敦久王宮のあった、やはり世界文化遺産のクスコの街並みで標高2400m。
写真を撮っている場所は3800m!! 富士山より高い場所です。
ちなみにマチュピチュは標高2400mです。

 今年の一月に南米へ行ってきた。
目的はマチュピチュを見ること。
実は今回が3度目のチャレンジ。1度目は(30年も前の話だが)南米に大きな政変があって旅行禁止。
2度目も、もう10年ほど前になるが、大規模なストライキがあってやはり旅行中止。
南米には縁が無いと諦め気味だったが、今年何とか実現した次第。
 マチュピチュへ入る一般的な方法として、クスコの街を経て近隣の村から観光列車で向かうルートがある。マチュピチュへは車が通行できる道路が無く、車で行く事はできないのだ。列車を降りて最後の峠だけをバスが我々観光客を遺跡まで送ってくれる。
(そのバスも貨物列車を使ってそこまで届けたそうだ。)
 ゲートをくぐり20分ほど歩くと、いよいよ念願のマチュピュが眼下に一望できるスポットに到着する。そこからマチュピチュの遺跡へゆっくりと降りてゆく。大きくない遺跡だが、今は一日二千五百人に観光客を制限しているのでそれほど混んでいる感じはしない。
 マチュピチュはクスコに住んでいるインカ時代の国王が、家来や学者、優秀な学生を連れ一定期間生活したいわば別荘である。
別荘と言ってもそこでは宗教儀式を行ったり、学校のような機能も併せ持っていた。
 世界文化遺産で一番人気だそう。是非一度!

南米旅行_マチュピチュ_田代 敦久遺跡を見下ろす絶好のポイントに立つ筆者。
笑っているが後ろに落ちれば怪我ではすみません……。

その家族にとっての「普通」の家

 私が建て主さんと初めて接するとき、ヒアリングリストを見せながら職業や家族のことをお聞きします。いろいろな建て主さんがいて、すべての項目を埋めようとしてくださる人、自分の名前だけで職業も家族のことを言わない人。本当に様々です。
 戸建住宅の設計は、マンションの設計とは大きく違ってきます。マンションはどんな入居者が入るか判りませんから、アンケート等からどんな間取りに人気があるかを分析し、組み立てていきます。それは、個々の入居者のことを考えない設計です。建売住宅もそうです。もう少し言及すれば、設計プラン集を見せて「これだけプランがあるから、選べるでしょう」とするハウスメーカーも、入居者の個性を考えずに設計しています。
 一方で、具体的な敷地と具体的な家族がいて、そこからスタートする設計は、全然違ったものになります。十人十色とはよく言ったもので、「普通の家族」とか「標準的な家族」というのは、まずありません。後片付けの仕方、洗濯物のルールなど、その家族が「当たり前」「普通」と思うことが、他人から見れば普通ではなかったりします。
 そのご家族が「当たり前」「普通」と思う生活、それがライフスタイルと呼ばれるものになるわけですから、それを充分に把握した上で、その家族だけの「普通」の家をつくりたいと思うのです。

小平の家①_shirasaki

小平の家②_shirasaki小平の家/この家のご家族は、地方で大らかに育ってきたご夫婦とお子さん。
1階のほとんどをLDKに使い、住宅密集地であっても陽光が家の奥にまで届く空間をつくりました。

団欒

有限な時間こそ胸一杯味わいたい

団欒_徳井 正樹15年愛用した床暖房に変え、二年前に我が家の居間に現れた薪ストーブ。
ホンワリと温める床暖房とは対照的に、帰郷した娘達をグイグイ束ねる求心力を持っています。

 高崎に居を移して17年余り、五人家族が三人に変わりました。現在はこの家で生まれた高1の三女と妻との三人暮らし。上二人の娘はこの春社会に羽搏き、もうすぐ夫婦二人暮らしに戻るのでしょう。
 「団欒」……今思えばこの居間で五人でワイワイ、ガヤガヤと過ごした時間がとても愛おしく感じます。
 これまで、様々な年齢のご家族と多彩な家を手掛ける幸せに恵まれました。初めて家づくりの会を通じて設計した海老名の家はちょうど築20年。あの時大学生院生だった息子さんも、今は実社会の中軸を担う父親でしょうか?
きっとあの家にも珠玉の家族時間が貯金されたことでしょう。仕事柄「その後」の暮らしぶりを拝見できる機会は、設計者の特権として最も楽しみにしている仕事の一つ。大概が点検も底々に「その後」を振り返る笑顔の報告会に切り替わるのですが、その時必ず私の知らない「その後」がそこにあることに気が付きます。 床の擦り傷、 ぎっしり詰まった本棚、手が入り始めた庭づくりなどなど、じんわりと染みこんだ家族時間の証しをそこに観る時、どこか同窓会の先生の気持ちで「良かったね」と無言で話しかけます。
 「家族が家族を意識することなく、過ごす時間は意外と短いか……?」
 52歳の年齢がそう感じさせるのでしょうが、やはり「その後も」共有する建主家族とのやり取りが、その「意外と短い」を実感させてくれます。あらためてこの原稿を書きながら、私たちの仕事を磨いてくれるのは建て主の言葉に在ると感じています。

「家づくり学校」

 家づくりの会では3年前から「家づくり学校」という若手住宅設計者を育成する活動を始めました。
 1年生コースでは座学、同2年生では見学、同じく3年生では演習を中心とした講義を行い、いわゆる大学や専門学校では教えてもらえぬような実学(机上の空論ではない、講師陣が血と汗を流しつつ実際の仕事から学んだ知識)を、若い人達へ伝える事が目的です。 (各学年月1回/全8回)
 私も初年度からその運営に参加しています。
 かつて住宅というものは住まい手自身が建てたり選んだりすることは出来ませんでした。一部の王侯貴族、豪農や豪商等、時の権力者や有力者を除いては。
 いまや誰もが自分の家を比較的簡単に持てるようになり、それはそれで素晴らしい事なのですが、反面、誰もが自己の欲求を誰はばかることなく表明出来るようになり、そこには他者との関係性や我が国の伝統文化に対する考察がいささか不足していた為、かつての美しい街並み(それは封建的な社会体制と表裏一体のものだったのですが)が失われてしまいました。
 個人的には、この学校を通じて一人でも多くの住宅設計者を育て、彼らが沢山の優れた住宅を作ることで社会環境の改善に寄与することが出来れば、と夢想しているのですが。

家づくり学校_1年生コース        6月の1年生講義「構法から考える」。
        1年生の授業は、F.L.ライト設計の自由学園明日館で行われています。

家づくり学校_2年生コース        5月の2年生講義「栃木の石」見学会。
        芦野石採石場にて話を聞く。

家づくり学校_3年生コース        6月の3年生講義「木造住宅の断熱設計」。
 講師の半田雅俊氏が設計したダイケン住宅のモデルハウスをお借りして講義が行われました。

建築家の心象風景 ①

 先月、作品集が出ました。
本の名前は「建築家の心象風景 泉幸甫」
 出版社から作品集の話があったのはもう5〜6年前。
話を引き受けても何となく原稿が進まず、本格的に書き始めたのは1年半前でした。
 本のタイトルは出版社からの提案で、タイトルの中にある「心象風景」のように建築家としての自己形成、ルーツも入れながらの作品集にしたい、とのことだった。
 でも自分で自分のことを書くとなると、それはなかなか難しい。第一に、多少なりとも努力はしてきたが、そんなに格好のいい人生を送ってきたわけでもなく、恥さらしのようなことを書くのはなかなか勇気がいる。それにもっと難しいのは文章にする時に、恥さらしどころか逆に自分を美化しがちになることだ。
 しかし読む方の立場から考えると、かっこいい人生物語よりエリートでもなく、曲がりくねり、時には失敗した人生の方が、また自分もちょっと頑張ればこのくらいにはなれる、位の内容の方が面白い。せっかく本を出すのであれば楽しく読んでもらった方がいい、そう思うようになってから紆余曲折の人生の話はアッと言う間に書き終えてしまいました。
 勢いに乗って書き終えたけど、振り返ってみると建築家はカッコよく見せるきらいがあるが、これから建築家を目指す若い人、また一般の人にも建築家の世界はどういうものであるか、その内実をよく知ってもらえるように率直に書けたような気がする。
 文章を書くのはあっという間だったが、作品集を作るとなると写真を集め、撮影したカメラマンに写真使用の許可を得たり、また図面を探し、編集者やデザイナーとのやり取り等、そういう手間の方がずっと大変だった。
 本はこれまでに何冊か出したから出版の流れはおおよそ知っているが、作品集となると建築と同じく手間暇かけて作る、手作りのようなもの。関わる人のヤル気によって出来が大きく変わるモノ作りの一つだが、いい方々に恵まれた。
 いずれにしろ作品集を出せたのは大変うれしかった。でも売れているかどうかは気になるもので、池袋のジュンク堂に行ったら平積みしてあった。
 また先日、今までにお世話になった方々にまだインクの匂いのする出版されたばかりの本をお送りした。その中のお一人は年賀状も何も出さずに失礼していた中学一年生の時の担任の先生で、ご存命と分かり現住所を探す事ができ、お送りした。五十数年振りのことになるが僕のことを覚えておられたら、さぞびっくりされたことだろう。

建築家の心象風景①_泉 幸甫

建築家は住宅で何を考えているのか

「建築家は住宅で何を考えているのか」建築家は住宅で何を考えているのか
(東京大学建築デザイン研究室編:
 難波和彦・千葉学・山代悟著—PHP研究所)

お薦めの一冊です。
少しゆとりをもった視点で家づくりを進められてはいかがですか。
「家族像とプランニング」や「街/風景」、「素材/構法」、「小さな家」、「住みつづける家」など、いずれもこれからの住宅にとって重要と考えられる10のテーマに沿って、建築家の意思が込められた住宅が41例紹介されています。事例ごとに写真と図面と説明文があって、わかりやすい構成です。

建築家の設計した家は住みにくいと思い込まれている方も多いのではないでしょうか。
この本によって、建て主の要求と与条件を考慮しながら、独自のヴィジョンを設計の中に盛り込んで、社会に対して大切な何かを発信している建築家の仕事をより理解していただけたらと考えます。
建築家のヴィジョンに建て主が賛同してできた住宅は、単に建て主にとって住みやすいというだけでなく、他では得られない価値のあるものとなっています。

私自身は、中でも「リノベーションの可能性」や「エコロジカルな住宅」、「住みつづける家」などが最近のテーマと重なり、強い共感を持ちました。
これから家をつくろうとする方が、その仕事(ヴィジョン)に賛同できる建築家を見つけられて、納得のいく家づくりをされるよう願っています。