家づくりレポート
■ 横浜近郊の家

小高い丘を臨む2階リビングダイニング。
都心から私鉄で約一時間。電車に揺られて行くうちに、コンクリートだらけでモノトーンに見えた車窓にも、ちらほらと緑が目立ってきます。この住宅は、そんな場所にあります。はじめてこの敷地を訪れた時、前面道路を挟んで南側正面の小高い丘が何と言っても印象的でした。都心からこんなに近くに、こんな自然豊かな場所があるのか! という驚き。大変個性の強い敷地に、心ひそかにプラン造りが楽しみになりました。
春には新緑に輝く木々に小鳥がさえずる窓。
夏には緑深く木々が夕立にざわめく窓。
秋には紅葉した木々から静かに葉が舞い落ちる窓。
冬には青い空にそびえ立つ木々がまぶしい窓。
四季折々、様々な色に変化する大きな窓を造りたい。
晴れの日も、雨の日も、すぐそこに自然を感じる大きな窓を造りたい。
この思いを根幹に練り上げたプランです。
小規模でもできる限り広々と感じられるダイナミックな空間を実現するために鉄骨造とし、不要な柱をなくし、動線を限りなくシンプルにしました。こうして小さいながら広々と感じられる開放的なリビングが完成しました。出来上がった大開口からは、もちろん前面に小高い丘が臨めます。
ともすると固い印象になりがちなサッシの窓枠に、十字型にしっかりとした木製の枠をつけることで、窓にダイナミックでありながらやさしい表情を加えました。
今頃は、澄み切った青空から秋の日差しが降り注いでいることでしょう。
設計を始めて早30年以上の時が過ぎましたが、この先もまた新たな挑戦を続けていきたいと思います。
1 階 :12.00 坪 〈家族構成〉
2 階 :18.00 坪 大人 2人
延べ :30.00 坪 子供 1人
- 2012.11.19
- 建築家:濱田 昭夫
- TAC濱田建築設計事務所
■ ライブラリー(家族の図書室)のある家
2階にあるライブラリー。
手前にある小さな吹き抜けを通して1階のダイニングに陽をとりいれる。
周囲を家で囲まれ1階はほとんど陽があたらない都市型住宅の場合、一番気持ちのよい場所にしたい居間・ダイニングスペースを2階に持って行く場合が多いものです。
この家の敷地は東西に細長い敷地。東側道路ですが他の三面は2階建ての住宅が敷地一杯に建っています。通常に考えるならば、2階リビングの逆転プランをおすすめする敷地です。ところが建て主の方が選んだ決断は1階をダイニングとし、TVを見るスペースをとってほしいということ、そしてライブラリー(家族の図書室)を2階につくってほしいとの要望。
共働きなので平日家族で過ごす時間は朝と夜。だから平日の昼間の居間の日当たりは特にいらないし、子供も自分の部屋でなく共通の大きなテーブルで勉強させたい。(前の家では食卓が勉強の場所でしたとのこと)
奥さんは朝早く起きて仕事に行く前に勉強するとのことで、朝日のしっかり入る気持ちのよい場所がライブラリーとなりました。
とは言っても、設計者として1階の居間・ダイニングスペースに吹き抜けや高窓をとって陽が入り、風が抜けるように工夫をしています。
ライブラリーを造ったとばっちりで、子供部屋はベッドと収納だけのとても小さな部屋。だからか、一人になりたいとき以外は気持ちのよいライブラリーに出てきて本を読んだり勉強したり(ゲームも)しているそうです。休日にはここでご主人がストレッチをしたりPCを見たりと、しっかり第2リビングとしても活躍しているようです。
ちなみにお二人の息子さんはとっても勉強が出来るお子さん。やはり頭のよい子に育てるにはライブラリー(家族の図書室)は有効ですね!
……というか、もともと勉強の出来るお子さん達ではありますが。
1階:14.19 坪 〈家族構成〉
2階:13.45 坪 大人 2人
延べ:27.64 坪 子供 2人
■ 時を重ねる家3@杉並区
東京の住宅地とは思えない花鳥風月を身近に感じるLDK。
建て主のNさんは、住み慣れた杉並区で土地を探し、「隣が幼稚園の園庭」という土地と出会いました。歴史のある幼稚園ゆえ、園庭には桜やモミジが豊かに枝を伸ばしています。
普段から私は、周辺環境の緑、四季の変化、花鳥風月といった自然の営みを身近に感じながら暮らせる家をつくりたいと思っていますが、この土地では素直にその思いを生かすことができました。キッチンの窓からは桜の気が手に取るように見え、リビングはもちろん、その延長で一体的に使える広々したデッキテラスも、正面に園庭の緑を望みます。
共働きで子育て中のご夫婦ゆえ、洗濯、物干しといった家事動線をスムーズにするために、じっくりと話し合いを重ねプランを検討しました。洗面所に面した物干しテラス、畳室に隣接した納戸には家族の衣類が集結して収納されるなど、回遊動線でストレスなく体が動かせる工夫が織り込まれています。
素材にもこだわりました。漆喰の壁、実家の裏山で育っていた杉の木を伐採して柱や壁に使いました。また、古いものがお好きな建て主さんゆえ、古建具や古材をデザインに取り入れて、新しい家なんだけれども、どこか懐かしさのあるほっこりした居心地の家ができました。
古建具を組み込んだ玄関。漆喰や焼杉の壁と相俟って、古さと新しさの混在した景色が生まれました。
1 階 :25.04 坪 〈家族構成〉
2 階 :21.69 坪 大人 2人
延べ :46.73 坪 子供 2人
■ 終の住処
リビング前面のワイドな開口よりテラス越しに満開の桜を臨む。
地下2階・地上2階建ての広さ25坪の2階が70歳を迎えたご夫婦の終の住処です。
中央に設けた光の庭を囲むようにそれぞれのスペースを配置し、光と風が室内全体に行き渡り明るく快適な住環境がそこに生まれています。
南バルコニーに面した20帖大のL.D.K.には、シンクとレンジを組み込んだオープンカウンターのキッチンを東寄りに配置し、西に連続する一段上がった和室にはご夫妻の希望の掘り炬燵を設置しました。
普段オープンの和室は、必要に応じて壁より戸襖を引き出し間仕切ることで客間ともなります。又、2面の開口部には障子が組み込まれ、閉めることで落ち着いた和室となります。
春にはリビング前面のワイドな開口よりテラス越しに桜の古木を臨み、居ながらにして花見を満喫することができます。
リビングと寝室に挟まれた4帖大の光の庭には夫妻の好きな鉢植えを置き、低めの開口より湯船に浸かりながら眺められ、同時に十分な採光と通風を浴室に与えてくれます。
寝室は将来を見据え、光庭まで一体として使用することで広さと明るさを享受し、水廻り・トイレには直接出入りできることでとても重宝がられています。トイレにはもう一つ出入口を設けています。
来客時には寝室の壁に引き込まれた建具を閉めることで、光庭寄りのスペースがサニタリーへの通路となります。
このように限られたスペースの中に光庭を取り、引き込み建具を適所に組み込むことで機能的で豊な空間が実現しています。
実はこの家の地下1階に夫妻の趣味空間があり、1階はお姉さんの住居です。そこで階段ホールにホームエレベーターを設置しています。
地下1階:27.62 坪 〈家族構成〉
1階:25.24 坪 大人 2人
2階:25.24 坪
延べ :78.42 坪
■ ヒューマンスケールで居心地のよさをつくる
家づくりの仕事をしていると、ヒューマンスケールという言葉を使うことがよくある。実体がない言葉だけにその本質は捉えにくい。ヒューマンスケールとは、どのようなことを指すのだろうか。
身体寸法で考えた寸法を、単純にヒューマンスケールといっても、大人から子供までその身体寸法には違いがあるし、誰にでも適したスケールで空間をつくることは実際には難しい。ヒューマンスケールのスケールとは、個人個人に合わせた寸法ではなく、人が暮すうえで、落ち着きをもつことができるスケールのことのようだ。そしてこの落ち着きをつくり出すためには、プロポーションという概念が必要になってくる。
ところが、これもまた感覚的な捉え方しかできない言葉であり、住宅に限っていえば、空間のプロポーションがよければ居心地がよいとも言えない。プロポーションのよさとは寸法的な釣り合いのよさを示すだけで、そこに暮らしのなかの所作に対する寸法的な検討がなされていないと、しっくりと納まったプロポーションにはならない。
そんなことを思い、暮らしのなかの所作がスムーズに流れる寸法を各所に与えていくことが、この東久留米の家の家づくりだった。
床面積は28坪の2階建て。家族3人(将来4人を想定)が暮らす家の広さとしては、とてもしっくりとした心地よさがあり、1階は階段を中心に回遊動線がつくられている。どの場所にいても進む方向に2つの選択肢があるので、実際より広く感じて暮すことができる。また、高さ寸法に関しても、食堂の天井高さは2m15cm、居間は2m30cm、そして居間の掃き出し窓の高さは1m92cm、どの寸法も、決して高いわけではないが、空間のプロポーションとしては、居心地のよさをつくり出したと思っている。
4人家族であれば、20坪台の住宅で、十分に心地よい家が実現できると考えている。
キッチンから食堂と居間、そしてその先のテラスを見ている。
食堂のテーブルは、この家のサイズに合わせ特注で設計している。
居間からウッドテラスを見ている。
窓は木製のサッシで壁に仕舞えるので、居間とテラスは一体になる。
ソファーの後ろは引戸を開けると、大きな収納になっている。
1 階 : 14.00 坪 〈家族構成〉
2 階 : 14.00 坪 大人 2人
延べ : 28.00 坪 子供 1人
■ kotori_House
ブログに載せた一枚の写真。日本海で見つけた防砂の板屏。杉の木で作られた板の塀は風雨にさらされて綺麗なシルバーグレイになっていました。
ちょうど設計中だった「kotori_House」の建て主さんから、自分の家の外壁もあんなシルバーグレイになりませんか? と嬉しい反応。板が風雨にさらされて変色してゆくのを木が腐ったと誤解する人もいますが、あれは腐っているわけではありません。紫外線で木の樹脂成分が変色しただけです。
そこで、信州産のカラマツ板の外壁にUVカットしない撥水剤を塗布することに。写真は完成から1年後の様子です。シルバーグレイまでにはあと数年かかりそうですが、建て主さんはその日を心待ちにしています。
外壁がいい感じになってきました。お庭の植物も建て物を引き立ててくれます。
竣工時の様子。真新しいカラマツの外壁。まだまだ寂しいアプローチの庭。
日本海で見つけた防砂の塀はきれいなシルバーグレイでした。
1 階 : 14.00 坪 〈家族構成〉
2 階 : 14.00 坪 大人 2人
延べ : 28.00 坪 子供 1人
(ロフト: 7.00 坪)
- 2012.10.19
- 建築家:古川 泰司
- アトリエフルカワ一級建築士事務所
■ 箍(たが)の家
─ 架け橋になった吹抜階段 ─
四世代が一つ屋根に暮らす、貴重な計画を預かった家の話です。
1歳から80代までの5人暮らし。しかし敷地は3mの高低差を持つ傾斜地。それでも世帯を分けず、玄関とお風呂は一つに絞りたいというご家族の結束観。計画に先立って預かった要望は、設計者を最初から「ど真ん中真剣勝負」に追い込むものでした。
頭を悩ませたのは四世代を繋ぐ動線と高低差。家づくりの中心は居間や茶の間ではなく、幼児から高齢者まで、家族を無理なく楽しく結ぶ連絡空間が最優先に求められます。
そこで仕掛けたのは光の井戸。家の中心に燦々と日光が注ぎ込まれる階段室です。スキップフロアの上は若世帯。階下は皆が集まる居間、食堂、茶の間。そして中2階に玄関、水廻り、祖父室を設けました。
つまり、祖父らは玄関ホールから緩い緩い階段を下りれば皆の集まる食卓に付けるし、階段室を共有することで若世帯やお孫さんとの対話も生まれる、という仕掛けです。
そこに、もう一つ思いが加わりました。吹抜階段に掛けられた竹のガラリです。光を和らげる効果もさる事ながら、この竹は、若くして他界したご家族が大切に手を掛けた竹林から伐り出されました。今、天高き棲まいから「家の箍」となって、優しく力強く家族を見守ってくれています。
若世帯の2階ホールから、吹抜階段を通して玄関ホールを見下ろしています。
1 階 : 39.00 坪 〈家族構成〉
2 階 : 15.00 坪 大人 4人(祖父+夫人+次男夫婦)
延べ : 54.00 坪 子供 1人(孫)
(屋根裏: 6.00 坪)
■ FOLD
みなさんはじめまして。8月から「家づくりの会」に参画させていただくことになりました。初原稿となりますので、ご挨拶を含めながら竣工して間もないこの住まいを紹介したいと思います。
設計事務所を開設して10年経ちました。それ以前はゼネコンで設計業務に携わり、そこでは現場監督として工事に直接関わる経験もしました。総合建設業の名の通り施工を請け負うのみならず、意匠設計から構造・設備設計までの全てを自社内で行える組織をもつために、疑問が生じれば他部所の方に相談できる便利な環境でした。しかしこの生産合理的一環方式の強みよりも、設計が施工する立場のなかにあることの問題を直接肌で感じ、独立して現在に至ります。
小さくても中庭を設けることでそれ以上の広がりが与えられた。
写真の建物は耐震等級3の性能に制震構造も付加した二世帯住宅です。前面道路を挟んで周囲環境とは無関係に開口部が開けられた建売郡が対峙し、南側に迫る隣戸は特徴的な配色がなされていました。良好な景観を望めない状況でしたが、コートハウス形式によりプライバシーを確保しながらも採光や通風を充分に得られるようにしました。回遊性のある動線や、天井高や床レベルの変化が空間に多様な展開や陰影を与え、それらや自然素材がバランスをもつことでメリハリのある気持ちのよい生活空間と住みやすい生活動線を提供しています。
私が設計で常に考えていることはバランスです。実際には無意識に捉えているという方が正しい表現かもしれません。これは素材や色・町並みなどの目に見えるものから、住環境や感性・コスト・家族間距離などの、目に見えない物事も含みます。「バランスがよい」と感じるものは「美しい」と言い換えられるのではないでしょうか。これは人の行為や仕草まで全ての物事に言えそうです。
誇示することなく、また埋もれてしまうことのない造形。
1 階 : 24.75 坪 〈家族構成〉
中2階 : 3.69 坪 1階親世帯 : 大人 2人
2 階 : 28.18 坪 2階子世帯 : 大人 2人
延べ : 56.62 坪 (将来子供2人を想定)
(小屋裏: 6.81 坪)
- 2012.08.01
- 建築家:杉浦 充
- 充総合計画一級建築士事務所
■ 白い板張りの家
住宅の内装の中でも板張りの壁天井は最も手間が掛る仕上げのひとつだと思います。天井に1枚1枚実(さね)のついた板を張る作業は大変ですが、出来上がった後の素晴らしさには替えられません。普通は杢目をそのまま惹きたてるクリアーなオイル拭取り等の仕上げにすることが多いのですが、この家では白い塗装をしました。顔料の入ったオイルステインを拭取ったアッシュの板は微妙に白と肌色と灰色が混ざり、独特の風合いとなりました。
板張りには悩まされます。薄い突板を張った塗装済みの既製品の板は、精度がよくツルツルできれいなのですが張り上がってもあまり感慨がありません。無垢の板を加工し一枚づつ張ったものとは何かが違います。とは言いながらも予算や床暖房や傷を気にすると無垢の板張りはなかなか実現できません。また杉や桧のような和材を張るとどうしても和風に見えてきます。節のある板となると嫌だという方も多いようにも思います。安っぽく見えてしまうのだと思います。この家では当初杉板を張る予定だったのですが、出来るだけ洋風にみせるためアッシュ材に変更しました。
マンションや住宅メーカーの標準的な家に使われる木製品はみなフェイクなものばかりになってしまいました。印刷技術の進歩で杢目の印刷シート貼りの建具や、額縁、家具等は本物の木と見分けがつかないほどです。予算の関係で仕方がない場合以外には受け入れがたいものです。大量生産でできた偽物に囲まれる生活と活きた木に囲まれる生活では何かが違うだろうと思っています。
さて、この春から家づくりの会に参加することになりました。大震災を経て建築の設計は耐震、節電、省エネについてより高度な性能を考えざるを得ない状況になってしまいました。会の中で研鑚していきたく、今後ともよろしくお願いいたします。
玄関前軒天の白い板張り。
LDKの天井板張り。
階段の壁にも白い板張り。
1 階 : 33.18 坪 家族構成 : 大人 2人
2 階 : 26.70 坪 (将来子供を想定)
延べ : 59.88 坪
- 2012.08.01
- 建築家:久保木 保弘
- Q'sBOX(キューズボックス)
■ 町なかハウス ─ 光熱費ゼロも可能な住まい ─
「町なかハウス」と名付けられたこの住宅は、徹底したスケルトン&インフィル工法です。外周壁・屋根・基礎は、高い耐震性と断熱性能を持ち、室内には構造壁がありません。床面積は小さくても広々と使え、家族が楽しく過ごせるオープンプランです。間仕切りが可変なだけでなく、配管などの設備も取り替えられます。家族構成や時代の変化に対応しやすい長寿命住宅でもあります。
暖かい住宅は当たり前になりました。これからの住宅で大切なのは、夏対策です。断熱性能を上げることで“無暖房” 住宅は可能ですが、“無冷房” 住宅は断熱性能だけでは実現できません。「町なかハウス」は、植樹をします。木陰をつくり、効率の良い遮熱をします。防犯性の高い換気窓を設け、自然排熱をして涼しい家を作ります。エアコンに頼らず自然室温で暮らすことを目指す省エネ住宅です。
屋根の形は片流れ、太陽光発電を装備しています。上手に住みこなせば、水道代やガス代分を買電で賄うことも可能。光熱費ゼロ住宅も実現できます。
室内と庭をつなぐテラス。戸外の居間。
木陰をつくる。家の前に植樹をします。
1 階 : 14.00 坪
2 階 : 12.00 坪
延べ : 26.00 坪
■ 住まいと緑
先日、京町家「秦家(江戸時代末期におきた戦乱による大火で焼失後、明治2年に再建された商家)」を見学する機会に恵まれました。通り庭から玄関土間に入り、一間半四方の明るくも控えめな中庭を見つつ、座敷の奥は築山と堀蹲(つくばい)を用いた高低差による立体感が見事な奥庭があって、二つの庭に挟まれて座敷では心地よい風がすーっと通りぬけていきました。町家の周囲はいまや高層マンションが立ち並んでいるというのに、この静寂さ、気候風土ならではの独特の居心地良さはこの素晴らしい庭あってのものと、改めて日本の庭の素晴らしさを堪能してきました。
5月末、東中野で昨年お引渡した住宅の撮影をさせて頂きました。お引渡しの頃は冬だったこともあり生垣のトキワマンサクもまだ新入り顔。植木畑で一目惚れしたホンシャラも新芽がまだで春心待ちの心境でした。敷地半分を将来のために残しての新築計画だったため、残した敷地半分の庭と玄関土間前に配した坪庭は、現場中に建て主さんが造園屋さんの仕事に惚れこまれたのをきっかけにお引越後徐々に手を入れられて、時折ご主人から頂くメールで伺ってはいたものの、5月にお住まいに伺った頃には、新緑と共に家の佇まいも生命感溢れる印象、見違える思いでワクワクしてしまいました。それも単に綺麗に庭をつくったという形ではなく、気張らない雑木の庭の中にあって、坪庭の白砂利には建て主さん自身が発掘したアンモナイトの化石が埋まっていたり、庭には小鳥の餌台、もともと敷地内にあった玉石を飛び石へ再利用、庭に茶室はまだ設計していませんが(!)留石まで配されています。加えて濡れ縁には番犬ならぬ番犀(さい)の置物などお目見えして、建て主さんの好みのものがさりげなく楽しげに取り込まれている様子、そのお話など伺うだけでも何時間も話が弾んでしまいそうな楽しい撮影の時間となりました。
番犀(さい)と共に庭を愉しむ濡れ縁からリビングダイニングをのぞむ。
現代人にとって庭を愉しむなどいまや贅沢な時間(私も多分にもれずそのような豊かなひと時は中々得られないのが現状ではあるものの)と羨ましく思いつつも、自然と四季を感じつつ日々暮らす器のもたらす心地よい時間の豊かさを得んと日々図面に向き合っています。
玄関土間から見える坪庭と2階へ上がる階段。
自転車愛好家の息子さんのため、玄関に自転車スペースを兼ねた広めの土間。
1 階 : 16.71 坪
2 階 : 14.85 坪
延べ : 31.56 坪
- 2012.07.01
- 建築家:松本 直子
- 松本直子建築設計事務所
■ ラナイのある家
生命の終わりの日まで台所に立ちたい、と願う住み手の一部になるようなコックピットのような台所になってます。
「生命の終わりの日まで台所に立ちたいと願っています。
それを実現できるような場がほしいです。」
クライアントの一番最初の言葉。有名料理研究家のお弟子さんで、良い道具を使って宝物である昆布で出汁をきっちりひき、命をいただくことを大事に考える人。
続けて
「働いていたときは時間に制約されたストレスの多い日々でした。
今はゆったりとした時の流れの中で丁寧に暮らしたいと思っています。
日々の生活も人との関係についても。」
これほど昨今沁み入った言葉はない。「丁寧に暮らす」ということば。雑でぞんざいに毎日を暮らす私に、神様が前に据えてくれた人なんじゃないかと思ったほど。
さらに話し始めると次々に色んなことが連鎖してくる。フリーダカーロ・スウェーデン・辰巳芳子先生・オヒョイズ・目白のかいじゅう屋・monSakata・坂田和實・三谷龍二・クラフト市……関係ないようで興味の繋がりが同じ方向であり、クライアントと不思議な縁を感じた。
(もちろん私の薄い知識に合わせて、話をしてくださる懐の深さのある方なのだけれど。)
シアワセだと想う時を尋ねると
「むつかしい質問ですが、単純に言うと次の通り。
今日は快晴で、ベランダには洗濯物と布団が干されていて、室内は太陽の光
が十分に差し込んでいて温かく、台所からはスープの良い香りがしていて、
読みたい本があり今日中に解決しなくてはならないこともない。
こんな今の状況をとてもシアワセだと感じます。今日はそんな日。」
もうまったく同じ幸せ感を共有できる!
この時点で私の中に暮らしのイメージがわぁーっと広がった。これだから住宅設計という生業はホントに面白い。
※「ラナイ」とは「ベランダ」という意味のハワイ語
1 階 : 14.24 坪
2 階 : 8.90 坪
ラナイ : 2.49 坪
延べ : 25.63 坪