【 松本直子建築設計事務所 】の家づくり
■ 松が崎の住まい
撮影:小川 重雄

南道路から玄関までの造園アプローチ。
設計段階では息子さんから近代の名作住宅建築や好みの空間について写真や映画のシーンからお話し頂き、建築専門でない方からの感想など伺う事ができ、視野の広がる時間を共有させて頂きました。
一方で私が個人的に好んで用いているオニグルミの原木(床材に使用しています)やその製材風景を見に、遠路南会津の材木店までご家族とご一緒頂きました。

1階リビング。柔らかい光が障子越しに差し込む。
敷地は南道路、北側に小さな林の見える豊かな周辺環境を暮らしに享受したく、結果LDKは南北両方に開放したプランニングとなりました。
プライバシーを意識し高めの塀に囲まれた南庭、2階インナーテラスを介した吹抜からは朝陽がダイニングに差し込み、住まいを南北にぬける心地よい風が通ります。
回遊動線や立体的な連続感からは住まいの一体感を得て、実質以上の広がりを得られていると思います。
そのほか、障子や鍛鉄の薪ストーブ、空間に繊細さを加える格子戸、漆喰や土壁、四種の広葉樹の板、力強い赤松の梁・・・etcなど用いて『自然を享受し、楽に楽しく自然体で暮らす住まい』を試みています。
竣工間際には雑木林と少々茶庭なども連想させる玄関への造園アプローチができ、最後に建主さんこだわりの家具が入った際は、住宅が生き生きと感じられた瞬間でした。
お引越後も、何かと口実をつくってはお邪魔させて頂いておりますが(笑)、年月を経ると共に徐々に味わいを増し、より豊かな暮らしを育む住宅になってほしいと願っています。
建築DATA 1階床面積 : 63.28㎡(19.14坪) 〈家族構成〉
2階床面積 : 55.53㎡(16.80坪) 母+息子
延べ床面積 : 118.81㎡(35.94坪)
構 造 : 木造2階建て
[家づくりニュース2015年3月号掲載]
- 2015.03.01
- 建築家:松本 直子
- 松本直子建築設計事務所
■ 住まいと緑
先日、京町家「秦家(江戸時代末期におきた戦乱による大火で焼失後、明治2年に再建された商家)」を見学する機会に恵まれました。通り庭から玄関土間に入り、一間半四方の明るくも控えめな中庭を見つつ、座敷の奥は築山と堀蹲(つくばい)を用いた高低差による立体感が見事な奥庭があって、二つの庭に挟まれて座敷では心地よい風がすーっと通りぬけていきました。町家の周囲はいまや高層マンションが立ち並んでいるというのに、この静寂さ、気候風土ならではの独特の居心地良さはこの素晴らしい庭あってのものと、改めて日本の庭の素晴らしさを堪能してきました。
5月末、東中野で昨年お引渡した住宅の撮影をさせて頂きました。お引渡しの頃は冬だったこともあり生垣のトキワマンサクもまだ新入り顔。植木畑で一目惚れしたホンシャラも新芽がまだで春心待ちの心境でした。敷地半分を将来のために残しての新築計画だったため、残した敷地半分の庭と玄関土間前に配した坪庭は、現場中に建て主さんが造園屋さんの仕事に惚れこまれたのをきっかけにお引越後徐々に手を入れられて、時折ご主人から頂くメールで伺ってはいたものの、5月にお住まいに伺った頃には、新緑と共に家の佇まいも生命感溢れる印象、見違える思いでワクワクしてしまいました。それも単に綺麗に庭をつくったという形ではなく、気張らない雑木の庭の中にあって、坪庭の白砂利には建て主さん自身が発掘したアンモナイトの化石が埋まっていたり、庭には小鳥の餌台、もともと敷地内にあった玉石を飛び石へ再利用、庭に茶室はまだ設計していませんが(!)留石まで配されています。加えて濡れ縁には番犬ならぬ番犀(さい)の置物などお目見えして、建て主さんの好みのものがさりげなく楽しげに取り込まれている様子、そのお話など伺うだけでも何時間も話が弾んでしまいそうな楽しい撮影の時間となりました。
番犀(さい)と共に庭を愉しむ濡れ縁からリビングダイニングをのぞむ。
現代人にとって庭を愉しむなどいまや贅沢な時間(私も多分にもれずそのような豊かなひと時は中々得られないのが現状ではあるものの)と羨ましく思いつつも、自然と四季を感じつつ日々暮らす器のもたらす心地よい時間の豊かさを得んと日々図面に向き合っています。
玄関土間から見える坪庭と2階へ上がる階段。
自転車愛好家の息子さんのため、玄関に自転車スペースを兼ねた広めの土間。
1 階 : 16.71 坪
2 階 : 14.85 坪
延べ : 31.56 坪
- 2012.07.01
- 建築家:松本 直子
- 松本直子建築設計事務所