【 遊空間設計室 】の家づくり
■ つづら折りの家

東南の木製建具を開放して中庭を取り込む

南側外観、両脇のモミジと外露地
今は誰も住んでいないこの家をゆっくり眺めては歩き、また立ち止まっては眺めたり、敷地内外を歩き回りました。
「家」と「庭」を丁寧に手入れされながら、自然を身近に感じてお住まいになっていたであろうこの平屋の、この場所の光と湿気を含んだこの空気感を体に覚えさせる事が、ここでの家づくりのスタートになると感じました。
モミジや紅白の梅などの庭木や瓦・敷石・大谷石など残せるものは出来るだけ残し再利用することにして古家は解体、敷地は南北に長く二等分されました。
新しい住まいは近隣の緑と敷地内の緑を注意深く繋げ、豊かな景観に育つよう配慮し敷地内外に奥行きのある住空間を提案しました。

広間から階段方向を見る
秩序の中のわずかなズレが親しみやすさを生み、家族を穏やかな気持ちにさせるのではないか、機能性や効率最優先からほんの少しだけ距離をとることで、そこには何か情緒が形になって現われるのではないかと考えたのです。
ささやかであっても日々の美しい生活を豊かに味わう、そんな住まいになればと建て主家族と一緒に夢を描きました。
photo:Masao Nishikawa
建築DATA 1階床面積 : 69.69㎡(21.08坪) 〈家族構成〉
2階床面積 : 35.60㎡(10.76坪) 夫婦
延べ床面積 : 105.29㎡(31.85坪)
構 造 : 木造2階建て
[家づくりニュース2016年2月号掲載]
■ 稲毛の家
撮影 : 西川 公朗

玄関土間越しにタタミルームを見る。右手引戸が床下収納入口。
サッカー大好き少年と若いご夫婦の住まいです。
最初の設計をスタートしたのが今から8年前でした、いくつかのハードルを越えやっと実施設計が完了、これからという時に突然ご主人の転勤が決まり、しかも遠方のため家族皆で行く事に。
残念ながら計画は頓挫しました。
そしてその記憶も薄れかけた5年後に、ご家族が稲毛に戻ることが決定。
ある日突然なんの前触れも無く、設計の再依頼のメールをいただきプロジェクトが復活!!
ご家族の家づくりの夢は、転勤先での5年間の生活経験と子供の成長とともに、いろいろと変化していました。
僕としても自分の5年前の仕事からはじめるより、新たな気持ちでもう一度プランを出してみたいと考え、一度白紙に戻して0からの設計を試みました。

絞られた開口から、外の気配を取り込む。砂漆喰仕上げの壁・天井が優しい光と影をつくる。
5年間のブランクを経て実施案となった住まいは、一階に土間と和の庭とつながるタタミルームをつくり水回りやバスコートをまとめました。
半階上がってウッドデッキやバスコートとも視線がつながるLDKをつくり、更に半階上がったところに寝室とウォークインクロゼットと書斎を配して、さらに数段スキップしてキッチンの真上に子供部屋があります。
LDKの床下は、何でも入る全面大収納空間になっています。
室内のどこにいても家族が集まるLDKと気配がつながり、敷地内のささやかな緑を楽しむコンパクトながらも、柔らかな光に満たされた住まいになりました。
建築DATA 1階床面積 : 54.48㎡(16.48坪) 〈家族構成〉
2階床面積 : 40.21㎡(12.16坪) 夫婦+子供1人
延べ床面積 : 94.69㎡(28.65坪)
構 造 : 木造2階建て
[家づくりニュース2014年12月号掲載]
■ 東村山の家
吹き抜けを中心に螺旋状に生活空間がつながる住まいです。
20代は、僕の師事した先生の彫刻的な作品制作の補助(助手)と、自らも未熟ながら立体作品をつくり美術展などに出展していました。自然界は渦を巻いているといわれますが、なぜか僕の作品も渦のような形態がよく現れました。

リビングから庭を見る
住宅を設計するようになりこの感覚は忘れかけていましたが、この東村山の家はリビングを中心とした吹き抜け空間の周りに庭や和室、キッチン、ダイニング、書斎、子供室、ルーフバルコニー、寝室と渦を巻くようにスキップしながら空間がつながっていきます。生活動線をショートカットする吹き抜け中央のオブジェ的螺旋階段が回遊性を与え、家族とどこからもつながる大らかな生活空間になりました。

ウッドデッキからリビングを見る
30歳を過ぎて建築の世界に入ると、ものをつくりながら言葉を使う必要性が出てきました。当たり前の事ではありますが、設計した住宅を建て主ご家族にしっかり説明し、雑誌に掲載する際もなぜこのような設計になったのか論理的に説明をする必要に迫られました。彫刻を作っていた時はそれほど言葉は要りませんでした。何かが発酵するように気持ちや心を込めて、身体を使って自ら汗を流し絞り出すように形にしていました。作家たちは皆、黙々と展覧会に出品します。作品の説明をすることもできません。有無を言わさず、理由も分からず入選・落選が決まり賞まで決まってしまいます。
落選すれば、展示されることもなく暗い美術館の倉庫から自ら作品を速やかに搬出しなければなりません、そんな世界でした。
こうやって言葉で自作を語るのも理屈をつけるのもいまだに苦手で、なかなか克服できません。多分これからも、僕は昔と変わらず敷地や建て主家族と対話し身体を使って粘土をこねるように、試行錯誤しながら家を作っていくのだろうと思っています。
建築DATA 1階床面積 : 63.96㎡ 〈家族構成〉
2階床面積 : 47.08㎡ 夫婦 + 子供2人
延べ床面積 : 111.04㎡(33.6坪)
構 造 : 木造2階建て
[家づくりニュース2013年5月号_掲載]
■ 大きな自然 ── 北千束の住まい
母屋の庭を借景に緩い斜面に沿うようにスキップフロアの空間が広がる、コンパクトでシンプルな住まいの、上棟式での忘れられない出来事である。
百歳になる第一世代のご主人が、孫家族の新居の棟上に感激、一作歌を作ったという。ところが詠んだ歌を書いたメモを母屋に置いてきたと言って、スッと席を立ち現場の段差や障害物をものともせず、だれの足でもない自分の足でスタスタと取りに行かれた。忘れ物をすると「あれ持ってきて……これ取ってきて……」とすぐスタッフを頼る自分が恥ずかしくなった。
ご主人は、何事もなかったかのように息子や孫、ひ孫が待つ席に戻り、張りのある力強い声で詩を詠まれたあと、「百年も生きているとこんなにも良い日がある。いやぁ~愉快だね、みなさんありがとう!!」と感慨深げに語った。その姿はまるで皆を包み込む大きな自然、太陽のようだった。そんなご主人と、若さ溢れる息子さんご夫婦、お孫さん夫婦、2人のひ孫の大家族に囲まれた僕たちは、どの顔も穏やかで優しい笑顔になっていた。
ご主人は隣にピタリと座ると僕の左肩に手を回した。ビールを飲み交わしながらいろいろお話をお聞きした、どの話もジンワリと体の芯まで染み渡るもので、僕の背中は次第に丸く小さく小さくなるばかりだった。
リビングから窓越しにデッキ、母屋の庭を望む。
玄関ホールからリビングを見る。