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栗大黒の家

 「大黒柱が支える家が欲しい」
 上背のあるがっしりとした体格の建て主が、最初に切り出したこの台詞に、私は未だ観ぬ写真のシーンを脳裏に思い浮かべました。
 一口に大黒柱といっても広がるイメージは様々でしょうが、その多くは農家の土間と囲炉裏の間に組まれた黒光りしたケヤキの大柱でしょう。家の中心に立つ背骨のような存在は、民家の象徴のように語り継がれてきました。確かに誰もが懐かしく思える太い角柱は、構造的な美学といえる縦軸に、地域社会の序列という横軸が絡みつき、私たちの記憶に深く染みこんできたかもしれません。

 私が建て主の台詞に感じた「大黒柱が支える家」は、それとは少し違います。

 開放的な家の中心に立つところは同じですが、正面にドンと立ち上がる、というよりは脇に控えて家族を見守る位置に構えます。
 柱の肌合いは、規律を重んじる様な直角柱ではなく、どの面にも角を持たずに皮を剥いたように自然に削いで実社会に疲れた現代人の家族を労います。
 樹種は栗材を用いました。理由は木の性質よりは材の持つ役所です。古来の堅いケヤキ大黒は、時として権威や富の象徴の場に登場しますが、広葉樹の中でも比較的柔らかい栗は、鉄路の枕木などあくまでも裏方でその耐久性を託されてきました。
 「四十過ぎたら自分の顔に責任を…」と同じく、柱一本にも、顔があり役があり格があります。永く家人を守り続ける家の顔は、家族の価値観を優しく支えるに相応しい存在でありたいと考えています。

栗大黒の家
玄関脇の和室から居間を臨む。楕円窓の奥が食堂と台所。
左手前が栗の大黒柱。