APARTMENT 鶉
JR目白駅から徒歩5分、大通りを1本入ったところに、駅近くにしては閑静な1400㎡の屋敷があった。ここにオーナーの居宅と賃貸の集合住宅に建て替えた計画である。
建蔽率60%、容積率150%の敷地に、3〜4階建ての建物を容積率一杯で建てると、優に20以上の住戸を作ることができる。不動産屋を始め、世の中の一般的な常識からすると、できるだけ多くの住戸数の建物をRC造で、敷地目一杯に作ってしまう。
しかし、大きい建物を作れば作るほど、借金は増え、かつ住み心地の悪い住戸が増え、その分賃料は下がる。それでも最初は良くても、当初の賃料がこの先何十年も保証されるわけでなく、また古くなると空室が出やすくなる。そうすると賃貸住宅の経営自体の危険性さえでる。
そうではなくて、初期投資も抑え、住環境にゆとりを持たせることで賃貸住宅としての市場価値を維持し、結果、適度な家賃が長い間継続する道をオーナーと共に探った。
完成したアパートメント鶉は、建蔽率48%、容積率は86%で、最大容積の6割弱しか使っていない。オーナーの住戸を含め全部で13戸。すべての住戸に屋根と庭のある木造2階建である。また私が長年研究してきた、土壁の風合いを持つ塗り壁で、全体を柔らかく仕上げてある。
建物はあたかも自生の集落のようである。全体をまとめる規則は見えにくいが、隣接する部分と部分の調整を図りながら、最適な形や位置を求め、それらが寄り集まった結果として、全体を形成した。しかし、中庭、通路、入口、居間、階段など、すべての空間は機能と働きにおいて精密にパターン化されている。
この集合住宅においては屋外の空間も丁寧に設計してある。長屋門のような入り口、屈曲する路地状の通路、水が湧き出す水盤のある小空間などがあり、さらに区の保存樹木の柿の木、鬼瓦、敷石、大黒柱など、旧家屋にあったものを保存、転用し、新しく持ち込まれた建築や樹木と溶け合わせた。
屋外空間の中心はビオトープのある中庭である。雨水を循環ろ過させ、低温の清澄な水質を保っているこの池には、メダカが元気に繁殖し、各種のトンボが生息している。
時と金の流れを少しだけゆっくり目に設定することで、しかもわずか13の住戸が集まるだけで、賃貸住宅経営としても立派に成立させた上に、これだけの豊かな自然を都心に生み出した。